八王子見て歩記/小津のアナグマ

あるご家族とアナグマ一家の交流
小津の自然と人の素敵な出会い
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自然に恵まれた八王子の山間部で野生のアナグマ一家と交流していたご家族がありました。モリアオガエルの道でご紹介した小津町にあるお宅です。丸まっちい身体にどんぐりまなこ。よく見るとなかなか愛らしい。野山で会っても人を見ると逃げ出してしまうくらい警戒心の強い動物だそう。どうやって人に馴れたんでしょう。「熊」が付くから猛獣じゃないの?いえいえ、違います。熊はネコ目クマ科、ニホンアナグマはネコ目イタチ科なので同じ仲間ではありません。雑食性で、野生では果実、小型哺乳類、鳥類、昆虫など様々な物を食べて暮らしています。写真をお借りできたので画像多めでお届けしましょう。

タヌキのつがい

「はじまりは昭和40年(1965年)です。勝手口にタヌキのつがいが遊びに来たのでエサをやってみました。その翌日、またタヌキかなと思ったら、やって来たのは4匹のアナグマでした。この地域には野生のアナグマが生息していますが、エサをやろうと思ったことは一度もなく、間近で見るのもこの時が初めてだったんです。」
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「アナグマが先にやってくると、タヌキは追い出されてしまうのです。アナグマはタヌキより背が低いものの、爪は鋭く。噛む力が大変強い動物です。」
目のまわりの隈が違うのをお分かりいただけるでしょうか。本来警戒心の強いアナグマが民家でエサをもらう。きっと腹ぺこだったのでしょうね。
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だんだん馴れてくる

「安全だと分かると子連れでやって来ました。アナグマは1年に1回、3月に3〜4匹くらい産み、ヨチヨチ歩きを卒業する6月末〜7月に連れて来ます。親子で来るのは1年間ほど。11月終わりには山に帰ってしまいます。」
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「馴れてくるに従って、家の者がいても平気でエサを食べるようになりました。多い年には、前年に生まれた2匹と合わせて7〜8匹連れてきたこともあります。」
子どもたちがご飯を食べているところ。ぞろぞろ
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「やがて玄関の中にも入ってくるようになり…。」
柿を食べていますね。
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「上がり口に置いたエサも食べるようになりました。パンの耳は大好物です。」
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タケノコの皮を剥いているそばでリンゴを食べています。
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こ〜んな近くで撮っても逃げないんですよ。まぜまぜご飯です。
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雨の日も欠かさず通ってきます。
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「そのうち食費がえらいことになってきました。人間用とアナグマ用で炊き分けて、アナグマ用に安いお米を炊いていたのですが、一斗(18kg)のお米を何日かで食べるようになったんです。これじゃ、お金がかかってしかたがない。幸い犬のエサも食べるようなので、10kg1,000円の安いドッグフードに切り替えましたが、最高で50kgのドッグフードが1か月で消えました。」
4個置いたエサ入れがすでに2個空っぽ。パクパク!
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手からエサをもらう

「すっかり馴れて、人を怖がらなくなったアナグマの子どもたち。箸でご飯をあげると上手に食べてくれました。それでも家族以外の人には懐かなかったのです。駐車場にいつもと違う車が停めてあるだけでも、その夜はやってきません。また、評判を聞いて撮影しにやってきた人が来た時は、縁の下に潜り込んで出てこない。大変警戒心が強い動物なんです。」
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手渡しでハムを食べさせています。
「歯があたらないよう、唇でそっとくわえてくれるんですよ。アナグマに詳しい方に話したら『あぶない』と注意されてしまいました。本気で噛むと人間の指なんて簡単に食いちぎれるほど鋭い歯を持つ動物だそう。でも、心を許してくれた私たちには歯をたてたことはありません。」
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こんな小さなビスケットだって大丈夫。
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「子どもにもやらせてみました。」
小首をかしげてエサだけくわえるよう気をつかっています。
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「やって来る時は、まずボスが先頭にたって扉を開けて入ってきます。前足を器用に使ってガラガラッと。帰る時に閉めていかないのが困りものでしたっけ。」
お!今夜は焼き鳥ですか?いただきま〜す♪
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飼い犬と家猫との力関係

「当時我が家には犬と猫がいました。猫がエサを食べている時は、上框(あがりかまち)から先に上らせません。もし足でも掛けようものなら猫に威嚇されてしまいます。アナグマたちも先住者に気をつかっていたようです。出入り口がアナグマでいっぱい!この後、猫はアナグマの背中をぴょんぴょん渡って外に出ていきました。エサに手を出さない限りケンカしないルールがあったようです。」
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●:「あっちの方が美味しそうだね」
○:「きゃっとふーどって言うらしい」
●:「ちょーだいと言ったら分けてくれないかな」
○:「この間それやって、フーーッて怒られたぜ」
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犬の方は鎖に繋がれているため、すぐ近くまでアナグマが寄ってきます。狙っているのはドッグフード。アナグマにあげているものより少し高価なフードです。
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「これはおいらのご飯。あげないっちゅうの!!」
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「あっ!しまった!やられたっ!」 わん!わん!わん!わん! 「コラ!待てっ!!」
だから、わんこのご飯に手を出しちゃいけないとあれほど…。
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世代を重ねて

「野生のアナグマは目の強さが違います。動物園にいる仲間と違って精悍な顔つきです。野生動物を撮るカメラマンの方から『動物園にいるとエサに困らないからだらーっとしてしまう。野生は違います』というお話しを聞きました。」
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「何家族ものアナグマがいたわけではありません。親が子を連れ、その子が親になって、また自分の子を連れてくる。その連続です。子別れの季節になると、子どもは親の縄張りを離れて遠くに移動します。子どもたちにはそれぞれ名前を付けていました。毛の色でクロとかアカとか。」
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「罠にかかって片足を失った子もいて、歩き方からピョコと呼んでいました。ピョコの親は猟師に撃たれ、最後にはピョコ自身も命を失ってしまいました。人間に対する警戒心が薄れ、よその家に入りこんだところを捕まえられたんです。」

「農作物を食べるアナグマは農家にとって害獣なのです。またその毛皮の質がいいところから、猟師に見つかったら最後です。近所でも有名になって、話しを聞きつけたテレビ局が取材させてほしいと来たこともあります。ですが、たくさんの方に知られると猟師も集まるわけで、すべて断ってきました。お見せしたアナグマたちの写真は初公開です。」
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「うちでエサをあげている限り彼らは人里に下りてきます。そうして猟師に狙われるくらいなら、命を縮めるくらいならと考え、餌付けを止めたんです。こうして、我が家とアナグマの交流は終わりました。写真のほとんどは昭和40年から平成に入ったころにかけて撮影したものです。」
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お借りした貴重な写真はスキャニングを終えてすぐ返却に伺いました。当時のようすをお聞きする私に、ご夫婦は微に入り細に入り色々なエピソードをお話しくださいました。彼らとの交流は決して忘れられない大切な思い出の宝箱…。

最後にとっておきの1枚をお見せしましょう。奥様がアナグマを持ち上げている写真。手足を丸めてまるで猫か犬の子どものようにおとなしている野生のアナグマです。意外に大きいでしょう?これでもまだ子どもなんだそうですよ。おそらく生後5か月くらいだろうとのこと。アナグマの足の裏を見られるなんて、滅多にないんじゃないでしょうか。(クリックで拡大します)
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小津の自然とやさしいご夫婦に感謝をこめて…

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by u-t-r | 2012-12-25 16:00 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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