八王子見て歩記/八王子車人形(後編)

伝統を今に生かして
八王子車人形〜西川古柳座〜(後編)
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八王子車人形は文楽のような専用劇場を持ちません。また、観光資源として活用されている淡路人形浄瑠璃のような常設劇場もないのです。かつて多摩地区で9座ほどあったと言われる人形芝居も、残るのは八王子車人形と奥多摩町川野地区の川野車人形くらい。座が消えていくに従って人形や浄瑠璃本は散失し、芸や形の伝承も失われていきます。口伝で伝わっていくことの多い民俗芸能。一度滅びた民俗芸能を復興させようにも、実際の舞台を見聞きした古老が残っていてくれないと、いくら他で芸を習ってもどこかで見たような姿かたちになってしまいます。伝統を受け継いでいく難しさはそこにあります。

色々な首(かしら)

人形の首(かしら)は、多摩地区で散失していた首を二代目と三代目が私財で集めたものだそう。現在120個ほどあり、うち90個は江戸時代末期の作品です。温度や湿度の変化に敏感なので専用収蔵庫に保管してあります。木製で髪の毛は人間の毛髪、顔は膠(にかわ)と胡粉(ごふん)。ヒビが入ったり割れたりしやすく保管には気をつかいます。
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首には胴串(どうぐし)が付いていて、胴串の扱いで人形に命が吹込まれます。種類は、主役を演じる男役である「立役(たちやく)」、「女形(おやま)」、「老役(ふけやく)」、滑稽な場面に使う「ちゃりがしら」、上人や烏天狗などのようにそれ以外の役には使わない「一役(いちやく)がしら」に分かれています。
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衣装

胴は50体くらい、衣装は150枚ほどあります。稽古場に出してあるのは次の公演で使う予定の衣装です。左手の鮮やかな衣装はフラメンコ用です。
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海外公演

演劇祭出演や文化交流事業などの海外公演は昭和51年(1976年)のソ連・アメリカ公演を皮切りに、ヨーロッパ・中南米・アジア諸国などに行き、現地で人形指導もおこなってきました。南米に行った時は総勢25人。職場の休みをとって同行する方もいるので、1か月以上の公演の場合は2週間くらいで交代しながら上演します。日本と違い、南米のお客さんはダイレクトに反応が返ってきました。写真はリトアニア公演の時のリハーサルの様子です。
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江戸の伝統を今に受け継ぐために

たとえば八王子の獅子舞はほとんど神事の奉納芸です。各地区ごとの神社で伝承され、形もそれぞれ違います。八王子車人形の上演も地元八王子が中心ですが、最近は国内各地や海外公演も行うようになりました。西川古柳座の演者の半分くらいは一般の方、素人さんです。後継者の育成には小中学校のころ実際に芸を見て、自分で演じてみることでまず興味を持ってもらいます。子どもの頃に覚えた芝居は忘れないものです。頭で覚えたものは忘れてしまうけど、身体で覚えたことは忘れません。中には18歳から始め、50歳まで引き継いでやっている方もいらっしゃいます。受験と入社による生活環境の変化をどう乗り越えられるかがテーマですね。

「年に一度は顔を見せなさいよ」と話し、稽古場に顔を出したら誰かが声をかけるようにしています。かといって居心地が悪いのはダメ、あまり良すぎるのもまただめです。車人形と一体になって動けるようになるのはだいたい10年が目処です。習得となると一生かかってもできないかもしれません。地道な積み重ねで、頭でなく身体に覚えこませることが何より大切です。
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代表的な演目

西川古柳座の演目をいくつかご紹介しましょう。伝説や,歴史上の人物に題材を得たものから,比較的新しい物語、そして洋舞まで。八王子車人形の演目は多岐に渡ります。

三番叟(さんばそう)
寿三番叟は能の「翁」を下敷きにした天下太平・国土安穏・五穀豊穣を祈るお祝いの踊り。田植えを舞う「揉みの段」と鈴を持って種まきを舞う「鈴の段」から成り立っています。人形浄瑠璃のほか歌舞伎など様々な芸能の幕開けに舞い、舞台の無事を祈る意味合いを持ちます。人形の烏帽子には黒字に金の縞が12本入れてあり、12か月=1年を表します。また、烏帽子の片面に赤い丸(太陽)、もう一方には赤の三日月(月)が入っています。上衣は鶴が大きく羽を開いた絵柄で、鶴の顔は背中側に描かれています。この顔は人形遣いしか見ることができません。
歌舞伎に「操り三番叟」という演目があります。演者が操り人形振りで舞うおもしろい芸ですが、これに対して車人形の「三番叟」は逆。人形が演者として舞います。音楽に調子を合わせてトン!トトトン!と足音をたてて舞い、舞台狭しとくるくる回りながら踊るのは車人形ならでは。
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東海道中膝栗毛
京の都を見物に出かける道中、ところは御油の宿はずれの並木道。弥次さんが狐のお面をかぶって、先に行く喜多さんを驚かしてからかいます。日も暮れた頃、2人は卵塔場(墓場)にさしかかります。折から通りがかったお使いの帰りの子供を化け物だと思い込み,弥次さんは棒で殴ってしまいます。泣いている子供を見つけた父親は、弥次さんの胸ぐらをつかみ、こぼした酒代と子供の治療代を要求します。怖くなった喜多さんは、その間に一人で逃げてしまいます。残された弥次さんは、父親にとっちめられたあげく、気絶してしまいます。それを死んだと思った父親は弥次さんの身ぐるみをはいだあと、死に装束を着せて立ち去ります。夜中に正気に戻った弥次さんは、自分の姿を見て死んで地獄に堕ちたものと思い込んでしまいます。
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葛の葉
昔、摂津の国に安倍保名という人がすんでいました。ある日、信太大明神に参詣し、みそぎをしようと池のほとりにたっていると、狩人に追われ傷ついた狐が逃げてきました。保名は狐をかくまい逃がしてやりましたが、追ってきた狩人たちは保名をさんざん責め深い傷を負わせてしまいました。傷で苦しんでいる保名のもとへ若い女がたずねて来ました。女の名は葛の葉といい、かいがいしく保名の傷の手当をしました。
やがて保名の傷も治り二人がともに暮らすうち、かわいい童子も誕生してしあわせな日々がすぎていきました。ある秋の日、葛の葉は庭に咲く美しい菊に心をうばわれ、自分が狐であることをつい忘れ、うっかり正体のしっぽをだしてしまいました。童子にその正体を見つけられた葛の葉は、ともに暮らすのもこれまでと、「恋しくばたずね来てみよ和泉なる 信太の森のうらみ葛の葉」の一首を残して信太の森へと去っていきました。
保名と童子は、母を求めて信太の森を探し歩きました。森の奥深くまできたとき、保名がふと振り向くと、一匹の狐が涙を流してじっと二人を見つめていました。はっと気がついた保名は、「その姿では子どもが怖がる、もとの葛の葉の姿になっておくれ」保名の声に、狐は傍らの池に自分の姿を映したかと思うとたちまち葛の葉の姿となりました。
「わたしはこの森に住む白狐です、危ない命を助けられたやさしさにひかれ、今までお仕えさせていただきました。ひとたび狐にもどった以上、もはや人間の世界にはもどれません」と、とりすがる童子を諭しながら、形見に白い玉と箱を与え、最後の別れをおしみつつ、ふたたび狐の姿となつて森の奥へと消えていきました。
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洋舞
動きが自由な車人形ならではの演目です。真っ赤な衣装を身にまとい、足音高く舞台で舞い踊る美しく情熱的なフラメンコダンスです。
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公演の予定
平成24年(2012年)春の八王子車人形公演予定をご紹介します。詳しいスケジュール・内容は講演会場か西川古柳座までお問い合わせください。

▼1月28日(土)
「西川古柳座 八王子車人形 ★子どもたちに伝えたい催し」
会場:くにたち市民芸術小ホール
開演14:00(開場13:30)
演目:二人三番叟・団子売り・芝浜
出演:西川古柳(西川古柳座)・鶴賀若狭掾(新内浄瑠璃)

▼2月3日(金)
「高尾山薬王院節分会」
会場:高尾山薬王院

▼2月14日(火)
会場:八王子市芸術文化会館(いちょうホール)

▼2月18日(土)
「八王子車人形を見よう!」
八王子生涯学習センター(クリエイトホール)
出演:講習生の発表会

▼3月3日(土)
会場:横浜モダンバレー

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御当主の五代目西川古柳様のお話しをお聞きしていると、八王子車人形は特別な人が特別な舞台で演じる芸能ではないように思いました。もともと民俗芸能は、地元の方が仕事の合間に練習をして、神社などで披露していた庶民の芸能です。150年も受け継がれた車人形をいちょうホールで、あるいは各地の祭礼で、身近に見られる八王子市民は幸せというよりありません。なお、ご希望の方はどなたでも西川古柳座で稽古を見学できるそうです。

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→前編「江戸時代から受け継がれてきた人形芝居」に戻る

取材協力:八王子車人形西川古柳座
東京都八王子市下恩方町1566 電話042(652)1222

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by u-t-r | 2012-01-10 16:13 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「直接ご本人に会ってお話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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