八王子見て歩記/夏の着物

夏の着物
八王子見て歩記/夏の着物_b0123486_15145786.jpg

昨年の今頃に見学させていただいた江戸小紋の染め付け、染め上がった反物はどうやって着物になるのでしょう。創業明治38年、横山町の「きものの西室」様にお話しをうかがいました。
和服を着て出迎えてくださったのは、3代目ご当主の西室博史様。さすがにプロの着こなしは違います。石塚様とはお父様の代からのお付き合いだとか。

江戸小紋の記事はこちら→八王子の江戸小紋(前編) 八王子の江戸小紋(後編)

最近の着物文化
和服離れと言われるようになってから大分たちますが、最近は着る方が少しずつ増えているんですよ。たとえば花火大会などで女性の浴衣姿を見ますよね。浴衣は「湯帷子(ゆかたびら)」から派生した服で、元々は身分の高い方の入浴着でした。厳密に言うと室内着なのですが、若い女性の浴衣姿はいいもんです。夏の外着としてすっかり定着した浴衣、とても女性らしくチャーミングに見えるのは、やはり和の国の女性だからでしょうか。和服を着る習慣が少しずつでも増えてくれるとうれしいですねぇ。

若奥様が今年の柄で浴衣と帯をコーディネートしてくださいました。
浴衣といえば白地に藍1色のイメージが強かったのですが、こちらは手染めの絞り染め。藍地にカラフルな朝顔が入っています。合わせた帯は可愛い金魚の絵柄の小千谷縮。雪国越後の1000年を超える麻布織の歴史と伝統の中から江戸時代初期の1670年頃生まれた縮(ちぢみ)だそう。天然繊維の麻ならではの爽やかな肌触りと、やわらかで軽く通気性にすぐれた生地です。
八王子見て歩記/夏の着物_b0123486_13365912.jpg

この反物は長板藍染、埼玉県の無形文化財です。くっきりと深い藍の模様が浮かび出た見事な一品。綿絽の染め下生地を長い板に貼り付け型を置き糊を置くその糊置きを裏側にも表に置いた糊と寸分の違いなく置き藍甕に漬し染め上げる伝統の技で染めあげられた工芸品です。 生産量が少ない希少な品です。
八王子見て歩記/夏の着物_b0123486_22505124.jpg


夏の浴衣ばかりではありません。本格的に着物を着る方も増えています。私のところではお茶のサークルを開催しておりまして、着物をご用意して着付けまでやっているんですが、和服でお茶は雰囲気が全然違いますねぇ。第一、正座しても足がしびれない。洋服だと辛いんです。女性はもとより、ご自分用の御召し物を仕立てた20〜30代の男性が3人もいらっしゃいます。

名称は「學而軒(がくじけん)のお茶サークル」、活動日は毎月第3土曜日と日曜日です。時間は3時間程度で、料金は2,000円/月1回・3,000円/月2回。お持ちの着物がある場合は、着付けを無料でいたします。開始時間はご希望をお申し付けください。

着物の単位
私たちは、反物のことを「三丈物(さんじょうもの)」と呼んでいます。反物の長さを単位で換算しますと、1寸が3.8cm、10寸が1尺です。更に10尺が1丈。おもしろいことに3丈が1反です。長さは13m。これも昔は12mだったんですが、日本人の体格がよくなるにつれ長くなりました。生地の巾のことは「尺五分(しゃくごぶ)」と呼びます。尺五分は約40cm。40cm×13mが1反のサイズです。
2反で「一疋(いっぴき)」です。古代中国では、馬を数えるのに、一疋、二疋と数えておりました。絹織物は高価で、馬と同じくらいの値打ちがありました。そこから、絹織物を数えるのに、一疋、二疋と数えるようなったんです。この織物は当時「錦」と呼ばれていた物だと思われます。繊維製品なのに「糸偏」ではなく「金偏」が付いているんです。言葉ひとつとっても着物の世界には長い歴史の裏付けがあります。
八王子見て歩記/夏の着物_b0123486_2223136.jpg

仕立て
既製品の着物を売る店もありますが、うちはお客様の体型に合わせてお仕立てすることができます。着物の世界では、洋服のようにBWHを採寸してサイズ出しをせず、また、仮縫もありません。ではどのように仕立てていくんでしょう。

まずお店で用意した見本を着ていただいて、全体的なサイズを確認します。女性ものは、着付けの段階である程度丈の調整が利くので、腕の長さと胴体の巾を基準に合わせます。男ものの場合、丈をドンピシャに合わせなければなりません。仕立て直しが利かないため神経を使います。
初めて着物を仕立てる方には、いきなり訪問着などの高い着物からではなく、初夏のこの時期は、まず浴衣を作ることをお薦めしています。多少丈が合わなくても浴衣なら目立ちませんし、1度作ってしまえば2回目からのお仕立てが楽です。

石塚さんのように有名な染師さんの作品は、反物の端に銘が入っています。この銘をどう出すかも仕立ての楽しみのひとつなんです。衽(おくみ)、着物が前で重なり合う部分のことですが、ここに入れたり、衿先(えりさき)、首のまわりを囲んで前胸元で交差する細長い部分に入れたりと、お好みによって銘の場所を決めます。
八王子見て歩記/夏の着物_b0123486_142957.jpg

反物の断裁の基本は、端から「袖(そで)」「身頃(みごろ)」と採っていきますが、柄によってはこれも変わってきます。大きな見応えのある柄が、反物の左右の端にある場合は、両側から袖と身頃を交互に採っていったりですね。
これ、私たちが勝手にやっているわけではないんですよ。染師さんは仕立て上がりを考えて染め上げているんです。よく見ると分かりますが、反物の端にカタカナで「ミ」と「ソ」と記されていますね。それぞれ「ここから身頃」「ここから袖」という染師さんの設計図のようなものです。
八王子見て歩記/夏の着物_b0123486_22175442.jpg

夏のお召しもの
夏の着物を一般に「うすもの」と呼びます。7・8月の暑い時期には、透けて見えるほど薄く織ってあり通風性のよい「絽(ろ)」や「紗(しゃ)」を着ます。写真の反物は綿麻縮、布地ごしに向こうの景色が見えるほど薄い生地です。
八王子見て歩記/夏の着物_b0123486_13304055.jpg

仕立て直し
西室様では、たんすに眠っているお着物、お母様・お祖母様のお着物の丸洗いやシミ抜き、下手直しをお受けしているそうです。切らずに作り帯に加工したり、着れなくなったお着物から帯にする、お着物からロングコートに仕立て換えることもできるそう。思い出のお着物があったら、一度ご相談されてはいかがでしょう。

----------------------------------------------------

最近の若い女性は手が長く痩せているので、仕立てにはご苦労されているとか。特に背の高い女性の場合は、裄(ゆき)の長さが足りなくなってしまうこともあるそう、袖の部分ですね。足りなければ生地を継ぎ足して作っていくそうです。ちょっと心配になってお聞きしてみました。「継ぎ目が出たりしないですか?」。
「お相撲さんは、肩の筋肉がすごいでしょ?皆さん継ぎ足しているんですよ(笑)。」
あぁ!なるほど。そういえばあの体格だもの。

----------------------------------------------------

取材協力:「きものの西室」八王子市横山町6-12 電話042(642)2466

ブログランキング・にほんブログ村へ

by u-t-r | 2010-08-03 17:15 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


by UTR不動産
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31