八王子見て歩記/江戸小紋2

八王子の江戸小紋(後編)
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江戸庶民が愛した江戸小紋を今も染め続けている石塚染工様。
この道40年。伝統工芸士・石塚幸生様に染めの工程を教えていただきました。

地張り
工程の最初は「地張り」。薄く糊が塗られた板に布地を固定します。「張り板」という一枚板を台の上に載せて霧を吹き、刷毛でならして湿らせ、絹の白生地を歪みなく真っすぐ拡げて板に密着させます。両耳を紙テープで固定し、板の汚れと型紙の傷みを防ぎます。
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型付け
次に、水に浸しておいた型紙を軽く拭き、余分な水気を拭い取ります。型紙の端には糊を盛りつけておきます。糊は米ぬかにもち米少量を加えてセイロで2〜3時間蒸して練ったもの。生地の染めない部分を防染するために用いられます。
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型紙には位置がずれないよう小さな目印(星)が付いています。これを目安に、柄がうまくつながるように少しずつずらしながら型付けしていくのです。正確に合わせていかないと柄が歪んでしまう大変な仕事です。これを何度も繰り返して一反(12〜13メートル)に糊置(のりおき)をしていきます。
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板干し
型付けが終わったら、盛りつけた糊を乾かすために作業所の天井で乾かします。
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色糊作り
型付け作業をしている間にやっておくのが、地染め用の「色糊作り」。過去の調合色見本帳を見ながら染料を調合して、決められた色に調整します。調合が終わったら糊を混ぜてよく練り込み、出来上がった色糊で端布に試し染めをします。染料は熱を加えることで染まるため、9分間ほど蒸します。蒸し上がって発色した端布を見ながら、色を微調整して目的の色を作ります。
写真の女性は、石塚様のお弟子さん。美人ですよーー。
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地色染め
型付けが終わった生地を機械のローラーに挟んで色糊を乗せて地色を染めていきます。この工程を「しごき」と呼びます。
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蒸し
色糊がはがれたりこすれ落ちるのを防ぐため、おが屑を表面にまぶしてから「蒸し」にかけます。「蒸し」は、生地を蒸して色を定着させる作業です。「しごき」が終わった布を木の枠に吊るして蒸し箱に入れ、約25分かけて60度から98度まで徐々に蒸箱の温度を上げていきます。
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水洗い
「蒸し」が終わると水洗いして糊を落とします。ここで初めて江戸小紋の柄が浮かび上がってきます。洗い終わった反物を脱水し、広げて自然乾燥させます。
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湯のし
乾燥したら、「湯のし」(大きなアイロン・ローラー)をして生地の細かいシワをとり、巾を整えていきます。
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地直し
型付けの際、どんなにていねいに糊付けしても、柄の継ぎ目が現れてしまいます。これを修正するのが最後の工程「地直し」です。薄い染料を筆にとって、継ぎ目が目立たないよう修正しながらボカシをかけていきます。この工程も大変熟練を要する仕事です。直しが終わったら完成です。
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石塚染工様は、初代石塚梅次郎様(文久元年生)が小田原で染物業を営みはじめたのが創業です。明治30年(1897年)八王子に移り、二代目石塚金次郎様、三代目石塚健吉様(元通産大臣指定伝統工芸士 八王子市技能功労賞)、現四代目石塚幸生様(経済産業大臣指定伝統工芸士)と、4代に渡って江戸小紋染めの技術を受継いでこられました。石塚様が20代の頃は、まだ浅川で糊落としをされていたそうです。

戦前は、今と違って呉服屋さんの数は少なく、染物屋さんが着物販売の中心でした。お客様に染め見本で柄と色を選んでいただいてから反物を染め上げてもらい、お店で仕立てて販売する売り方がほとんどでした。昭和30〜40年代は着物を着る方もまだ多く、八王子市内には染物屋さんが20軒ほどあったそうです。

やがて時代は洋装へと移り変わり、着物の需要は少なくなっていきます。需要の減少にともなって、江戸小紋染めに絶対必要な型紙の素材「地紙」の生産も減り、型紙を作る職人さんさえ大分少なくなってしまいました。

型紙は柄の細かさにもよりますが、細かいものだと5反から10反、粗いものでも30反も染めれば壊れて使えなくなってしまいます。石塚染工様では、貴重な型紙を何枚も保有していらっしゃいますが、この型紙にもいつか寿命が来ます。その時になって江戸小紋を再生しようと考えても、伝統技術の背景そのものが絶えてしまっては、あの繊細な柄を見ることが二度とできなくなるかもしれません。

本来地味な色であるはずの鼠・茶・藍が、微細な文様の紡ぎ出す視覚混合の効果で、意外な彩度となって目の前に現れます。白地に鼠色の江戸小紋はしぶい銀色にも見え、江戸の昔の洒脱を今に伝えるよう。こればっかりは実物をご覧にならないと、伝わらないでしょうねぇ…。

さて、気になるお値段です。
江戸小紋といえば高価なものと思い込んでいましたが、お聞きすると、一反10万円前後から訪問着用の20〜40万円のものまで品揃えがあるそうです。仕立ても一緒に受けていただけるので、この機会に一度、江戸小紋を実際に見せていただいてはいかがでしょうか?
写真は夏の着物「絹紅梅」です。
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取材協力:有限会社石塚染工様
東京都八王子市元横山町1-16-1(JR八王子駅北口徒歩10分)
TEL:042-642-4400/E-mail:ishi58@hb.tp1.jp

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by u-t-r | 2009-08-11 17:37 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「直接ご本人に会ってお話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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