八王子見て歩記/江戸小紋1

八王子の江戸小紋(前編)
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明治期から昭和まで、主要輸出品シルクで日本経済を支え続けた八王子繊維業界。織物・染色・編・糸・縫製といった伝統技術が、今でも脈々と残っています。江戸小紋の伝統工芸士・石塚幸生様を訪ね、八王子市元横山町の石塚染工様に取材に伺いました。

伝統的工芸品
石塚染工様は、伝統工芸・江戸小紋の染色をなさっています。その作品は、経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定され、また、東京染小紋の東京都知事指定伝統工芸品でもあります。
伝統的工芸品(伝統工芸品)は、「長い間吟味された、人と自然にやさしい材料が使われる手作りの工芸品で、100年間以上多くの作り手の試行錯誤や改良を経て確立した長い伝統を持ち、日本の生活慣習や文化的な背景とも深く関わってきた歴史があり、一定の地域で産業として成立しているもの」の中から認定されています。

こちらは、現四代目石塚幸生様が内閣総理大臣賞を受賞された作品「深山(しんざん)」、江戸小紋の柄を数種類使用して染め抜いた訪問着です。縦縞が染め抜かれた濃い鼠色の地に、さらに松竹梅文様の繊細な小紋が配置されています。
普通これだけ多くの文様を使うとパッチワークのようになってしまいますが、江戸小紋は別です。遠目には上品なグレーの地に、洒落たアクセントが入ったよう。しっとり落ち着いた雰囲気です。受賞時には、「多くの作品の中でも、今までにない上品さと斬新さをもった柄」との評価をいただいたそう。
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小紋染めの発祥
小紋とは室町時代に発祥し、江戸時代に普及した型染めのことです。 大紋型染め(印半纏・染半纏など)、中型染め(浴衣に使われる藍の型染など)に対し、細かい模様柄の型染めのことを小紋型染めと呼んでいたことからこの名が伝わったといわれています。
江戸時代初期に武士の裃(かみしも)に細かな模様が染められるようになって、小紋染めが発達します。裃には各大名家ごとに定められた柄が用いられていました。例えば将軍家はお召十、紀州徳川家は極印の鮫、加賀前田家は菊菱、芸州浅野家は霞、鍋島家は胡麻、島津家は鮫といった具合です。

当初は武家階級のものだった小紋が一般に普及しはじめたのは、江戸時代中頃からです。寛永5年(1628年)より200年以上にわたり幾度も出された奢侈禁止令によって、着られる色は「茶色」、「鼠色」、「藍色」の地味な3色に限定されてしまいます。こんなことでへこたれなかったのが江戸の庶民。定められた3色に贅を凝らすのが大流行しました。

「江戸流行色 四十八茶 百鼠 藍」と言われるように、鼠色(グレー)にさえ100種類ものカラーバリエーションを生み出します。江戸鼠、深川鼠、銀鼠、梅鼠、葡萄鼠、黒鼠、藍鼠、錆鼠、利休鼠、素鼠、都鼠、小豆鼠、紅鼠、臙脂鼠、嵯峨鼠、壁鼠、玉子鼠、島松鼠、呉竹鼠、松葉鼠、納戸鼠、源氏鼠、濃鼠などなど。遠目に色の見分けはつきにくいものの、お互いの袖が触れ合う近さで初めて微妙な色合いが分かる、なんと粋なおしゃれでしょう。
色だけでなく、模様にさまざまな工夫を凝らした極小染めの江戸小紋で染め上げたり、裏地に使ってみたりという贅沢さ。奢侈禁止令を出した御上が頭を抱えたのは言うまでもありません。

江戸小紋の種類
江戸小紋染めは、手漉き和紙を2〜3枚柿渋で貼り合わせた「地紙」に、キリ(錐彫り)や小刀(突き彫り)、道具(道具彫り)等を使って模様を彫ります。この型紙を一度に7・8枚重ね、長さ13〜30cm幅40cmの間に彫ります。中には、細かい柄で3cm平方に千個以上の穴をあけるものも!こうした型彫りの極小文様が、すばらしく繊細でシャープな江戸小紋を生み出します。

型紙の生産地は伊勢(三重県鈴鹿市)だそうです。職人さんはそれぞれの技法ごとに別れ、錐彫、突彫(小刀で文様を切り抜く)、引彫(縞)、一枚突(割付柄)、道具彫(柄物)の5種類。このうち縞柄は、伊勢型紙の型地紙(かたぢがみ)の良質なものが入手しにくくなり、今では型紙作り自体が難しくなっているそうです。

石塚様所有の型紙のひとつです。向こう側が透けてみえるほど繊細なさまをご覧ください。
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縞柄には、きまり筋、変わり筋、養老、立涌があり、きまり筋は、その縞の本数により呼び名があります。
玉縞(1寸巾に26本)、二ツ割(1寸巾に23本)、似たり筋(1寸巾に22本)、極毛万筋(1寸巾に21本)、毛万筋(1寸巾に20本)、並毛万筋(1寸巾に19本)、極万筋(1寸巾に18本)、間万筋(1寸巾に16〜17本)、上万筋(1寸巾に14〜15本)、万筋(1寸巾に12〜13本)、大名筋(1寸巾に10〜11本)。

型紙と染めあがり
石塚様に型紙と染めあがりを見せていただきました。
文様の名前は「菊唐草」。焦げ茶の部分が型紙、白い部分が彫られた穴です。
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拡大した画像がこちら。よく見ると、穴に細い糸が走っています。紗張り(しゃばり)といって、彫刻した型紙に目の粗い織物(素材は絹)を貼り付けて補強する技法で、柄(がら)の離れている部分を固定したり型紙を丈夫にして、染色に耐えられるようにするものです。型紙に残った線は細さわずか数ミリほど。紗張りをしないと染色作業中にバラバラになってしまいます。
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型紙を使って染め上げたものがこちら。糊を付けた部分が白く抜けます。さらに花の中心部分にやや濃い色でボカシをかけ、奥行きを表現しています。(地の四角いパターンは生地です。)
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反物全体ではこんな感じ。夏の着物「絹紅梅」です。
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後編では、八王子江戸小紋の歴史と、実際の染色工程を写真でご紹介します。
京都の友禅染めと同じように、昭和の中頃まで浅川で糊落としをやっていたそうですよ。

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外交官の奥様が江戸小紋を求めに来られたこともありました。大使館のパーティで来賓が身につけてくるのは、その家に代々伝わった重厚なアクセサリーの数々。ブランドものの洋服でかなう相手ではありません。日本伝来の着物なら位負けしないとお考えになったそうです。

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取材協力:有限会社石塚染工様
東京都八王子市元横山町1-16-1(JR八王子駅北口徒歩10分)
TEL:042-642-4400/E-mail:ishi58@hb.tp1.jp

→後編へ続く

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by u-t-r | 2009-08-04 19:23 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「直接ご本人に会ってお話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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