八王子見て歩記/食べるは生きること

「食べる」は「生きる」こと
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季節の彩り
今年、端午の節供の時にお出しした行事食です。
菖蒲のそばに兜の折り紙が添えられていることにお気付きでしょうか?これはね、うちの栄養士が家で折ってきたものなんですよ。他にも、山へ行ってクマザサを苅ってくるスタッフ、奥多摩から通う調理師がいち早く紅葉したモミジを摘んでくることもありました。誰かの指示で動いているわけじゃありません。栄養課のスタッフたちが自発的にアイディアを出し、手分けしてくれているんです。患者様に対する彼らの思いにはしばしば胸を熱くさせられます。

料理の飾り付けに使う季節の葉や花などを「飾り葉」と呼びますが、今どきはお店でも売っているんです。なぜわざわざ手間をかけて集めるのでしょう。買えば安いのにね。
それは、患者様たちにお仕着せの料理をお出しているつもりではないからです。
たとえば台所で家族のために作る食事に、奥様が飾り葉を買って使いますか?使わないでしょ?庭に季節の花が咲いていたら、一輪摘んでお料理に添えるかもしれません。そういう経験をお持ちの患者様が入院されているかもしれませんね。私たちは皆さんの「家族の食卓」をできるだけ再現してさしあげたいと考えています。ですからお店のようなことはしません。
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包装紙と「御献立」メニューも手作りです。
スタッフがパソコンで作りました。先に「行事食は患者様別に10種類ある」と話しましたでしょ。お料理の内容が少しずつ違うんです。ですから「御献立」も10種類作ったんですよ。文字だけでは味気ないので、季節感のあるイラストを入れました。「記念に持って帰ります」とおっしゃる方も多いです。
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食べる大切さ
消化器系の病院ということで、お食事を召し上がれない患者様もいらっしゃいます。手術後の食事で嘔吐してしまい、食べることに恐怖を感じるようになった方も。中には「何を食べたいのか自分でも分からない」と悲しそうにおっしゃる患者様もいました。私どもが食事をお出しさしあげているのはそういう方たちです。
「食べられないのよ」という患者様には「食べなくてもいいんですよ」と声かけします。他の病院だったらドクターに叱られてしまいそうな話しです。それでも食べる・食べたいという意欲を持っていただくために無理はしません。

忘れられない食卓
ご高齢の患者様の中には、「子どもの頃食べたものなら」とおっしゃる方もいらっしゃいます。どんなものなのかとお聞きすると答えはさまざまでしたね。すいとん、お塩をパッとふって握っただけのおにぎり、味噌をつけて焼いたおにぎり、「それならひょっとしたら食べられるかも」。さっそく調理室に戻って、お話しに出たお料理を作ってお出しします。その一食ががきっかけとなって食べられるようになることも多いんです。

「食べる」は「生きる」ことなんです。その方の過ごしてきた人生、父や母と囲んだ食卓。そういう背景が人の生きる力の源泉になっていると感じますね。それくらい食べることは重要なんです。「お米じゃなくてパンを食べたい」、「お魚は苦手だから卵やお肉がいい」、「ごはんよりおうどんをお願いします」。もちろん喜んで調理室に駆け込みます。
その日の献立が全種類違う時もあると言ったのはそういうことです。食べていただけることなら何でもします。ベッドサイドで患者様と直にふれ合えば、誰でもこうせざるをえないんじゃないですか?お金のためだけじゃできない仕事なんだと思います。

「最近、食事がおいしくなってきた。腕をあげたね!」とうれしい事を言ってくださる患者様もいらっしゃいます。いえ、私たちはいつもと同じお料理をお出ししているんですよ。患者様のお体がよくなってきたから、おいしく召し上がれるようになったんです。

お赤飯とメロンアイス
栄養指導という業務があります。
食生活をご指導さしあげる大切な仕事です。若い方には好物を少しだけおさえるようアドバイスしています。でも、ご高齢の方には好きなものを食べさせてあげたい。我慢したまま晩年を過ごされるのは忍びないです。「毎日じゃなくて、たまになら食べて大丈夫です」「どれくらい?」「毎日じゃなければ、『たまに』になりますよね(笑)」。

その方が何を「なぜ食べたいか」も大切です。「お赤飯を食べたい」とおっしゃる患者様がいました。1食だけ炊きあげることはできませんので、近くのお店で出来合いのものを購入し盛付け直してお出ししました。ある方の願いは「千疋屋のメロンアイスがほしい」。病院の予算でそれは無理だなんて言えません。これも100円カップのメロンシャーベットを買ってきてきれいに盛付けました。「さすが千疋屋は違う!」とおいしそうに召しあがってくださいましたが、もちろん本当のところはご存じのようでした。気持ちを受け取っていただけたんでしょうかね。きっと、その方の大切な思い出の中にある、とっておきの食べ物だったのだと思います。「食べる」は、過ごされてきた人生とも密接に繋がっているものなんです。

嚥下障害(固形物を飲みくだせない)のある患者様。いつもは事故がおきないよう、とろ味をつけた副食をお出ししていました。この日は「普通の食事がとりたい」とのこと。慌てて調理室に戻って残りを調べたところ、かろうじて一食分はある。新しい器に盛付け直してお出ししましたが、結局飲みくだすことはできませんでした。再度、とろ味をつけた副食をお出ししたことは言うまでもありません。
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悲しい食事
医療チームが懸命の治療をしても、手が届かないことだってあります。
長期入院をされていた末期ガンの患者様。もうすでに食事ができなくなっていました。それでもご家族の人数分の行事食をご予約。皆さんがおいしそうに召し上がるのをニコニコしながら見守っていらっしゃいました。「ご家族が召し上がっているのを見て、おつらくないですか?」とお聞きしたところ、満足そうに「いいんです」とおっしゃいます。

お体が健康な頃は、皆さんで食卓を囲む生活を送っていらっしゃったんでしょうね。皆さんでご馳走を楽しんでいらっしゃったんでしょうね。口で咀嚼するだけが食事ではないんです。この方からはとても大切なことを教わりました。
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爪と神様
草山先生は4人兄弟の末っ子だそう。幼い頃からお母様は朝暗いうちから日暮れまで畑仕事。自然に料理は草山先生の仕事になっていたといいます。先生の右人差し指の爪には黒い線が1本入っています。4歳の時に誤って指に包丁を突きたててしまった怪我の痕が、大人になってもずっと残ってしまいました。「これはね。一生、包丁を持って仕事しなさいと神様がおっしゃっているんだと思います」。

行事食の時にいいお魚が手に入らなくて、八王子そごうに仕入れに行っていた時期もあるそうです。この時は仕入れによってメニューを変えるという大変なやり方をあえて選びました。
少しでも患者様に喜んでいただける食事をお出ししたいと、年4回以上の嗜好調査を行っています。それもアンケート用紙の配布という楽な方法ではなく、病室に出向き、直接お一人お一人にお話しをうかがうやり方でです。
※八王子そごうは、平成24年(2012年)1月31日に閉店しました。

あえて調味料を添える
院内食では、お店と違ってお料理に調味料を添えて出すことはしません。
これは定められた塩分量をきちんと守るためにそうしているのですが、行事食の時だけは例外にしています。いわゆる病院食がまずいと言われるゆえんの1つは味付けの薄さ。外食が多い生活をなさっていた方は特に薄く感じられがちなんです。行事食は味付けを若干濃いめにしてお出ししています。
それでも薄く感じる方には、特別な制限のある患者様以外はご希望にそってお塩やお醤油を添えてさしあげます。ほんのちょっと付けて食べるだけで、その行為だけで満足され、おいしく召し上がっていただけるからです。

医療機関ですので、年に何回か外部チェックを受けることもあります。本来恐い存在のはずの監査官が行事食を見て一言。「行事食の内容は基準を少し外れてもいい」。
この時代にそういう方もいらっしゃいます。
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定年退職後、後進の指導をと乞われて嘱託として残られた草山先生ですが、今は現場に立って調理されることはないそうです。けれども先生の夢は広がります。「患者様やご家族だけでなく、地域の方にも気軽に来てほしい」。先生の講座「生活習慣病の予防と食事について」は、八王子市役所の映像ライブラリー「市民の広場」で借りることができます。
・市民の広場ビデオテープ一覧

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取材協力:八王子消化器病院

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by u-t-r | 2009-05-26 17:13 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「直接ご本人に会ってお話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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