八王子見て歩記/百葉箱

八王子と百葉箱
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百葉箱とAMeDAS(アメダス)
昔はどこの小学校の片隅にもあった百葉箱(ひゃくようばこ・ひゃくようそう)。
側面にルーバーがつき、芝生などの上に設置された白い箱です。中には温度計と湿度計。児童が毎日観測をしていました。永年にわたり気象観測の一端をになっていた百葉箱ですが、1993年にAMeDAS(アメダス)=地域気象観測システムが導入され、ついにその役割を終えました。
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写真は多摩霊園内に設置されている雨量自動観測装置。八王子には、百葉箱時代からの気象観測データ蓄積が50年もあります。観測なさったのは、第四中学校の元教諭、原嶋宏昌さん。現在は八王子天気相談所の代表を務められています。
これほど長い期間、正確な記録を蓄積した地域は少なく、全国の地方自治体で天気相談所はわずか3か所にしかありません。原嶋さんに八王子の気象の特徴についてお聞きしてきました。しばし子どもの頃に戻り、原嶋先生の授業を受けてみましょう。

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八王子の地形と地質
八王子を地形の上から大きく分けると、山地・丘陵・台地・段丘低地の4つの地域になります。西のはずれは山地になっていて、陣馬山、高尾山などが連なっており、関東地方の西のはずれを南北に連なる関東山地の南端にあたります。山地から東へ丘陵(加住北丘陵・加住南丘陵・小比企丘陵・多摩丘陵など)が何本も延びていて、丘陵の上部は平坦で、東へいくに従って低くなっています。

これらの丘陵の間を中小の河川が東へ向かって流れており、河川沿いには段丘ができています。八王子の中心を成している低地は、浅川の氾濫原であり、広く浅い盆地になっています。山地を除くほかの地域は、砂や礫(れき)を主体とした厚い地層が基盤となっています。

八王子は夏暑く冬寒い?
暑いにつけ寒いにつけ、八王子はテレビによく登場します。夏はものすごく暑く、冬は冬で寒さが非常に厳しいところという印象を持っている方が多いようです。はたして八王子は住みにくいところでしょうか。
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気象データで比較してみましょう。
平成16年7月の東京都心(大手町)と八王子の毎日の最高気温・最低気温を示した図です。ご覧のとおり多少高かったり低かったりするものの、最高気温に大差はありません。ごく稀にいろいろな条件が重なって、八王子の気温が異常に高くなることがありますが、そういう時に限ってテレビ局が取材に来るのです(笑)。

夏の最低気温。八王子は都心よりかなり低くなっており、月平均では2.8度の差になっています。八王子では夜の10時前後になると、放射冷却によって冷えた空気が丘陵地帯からそよそよ吹きはじめ、しのぎやすい涼しさとなってきます。周囲の地形にもよりますが、主として北からの風です。夏の夜は都心部よりはるかにしのぎやすく過ごせる地域だといえます。
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一方、冬の寒さの方はどうでしょうか?同じく平成16年1月の最低気温を見ますと、八王子は毎日都心より大幅に低く、月平均でも5.1度低くなっています。晴天で風がおだやかな日には7〜8度もの差になります。日中の気温は都心とだいたい同じですが、夕方あたりから八王子では急速に冷えこみが強まります。「ジのつく駅(高円寺、吉祥寺、国分寺、西国分寺、八王子)を通るたびに1度ずつ低くなる」という俗説はあながち間違っていないようですよ。

八王子と台風
これからの季節に一番気になる気象現象。台風についてはどうでしょうか?
まず、基礎知識。
台風のまわりには、中心に吹きこむ反時計まわりの強い空気の渦があります。台風の進路の右側にあたる地域ではさらに進行速度が加わるため、進行速度が大きいほど強い風が吹きます。これに対して、進路の左側にあたる地域では、進行速度に吹く風が相殺されるため、風速は弱められることになります。
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八王子では、台風の進路が西側なのか、東あるいは南側なのかで、荒れ方がかなり違います。
中心が八王子の西側を通る台風は要注意!中心が進路を1から3に進むにつれ、風向きも図のように変わります。風がもっとも強く吹く時の風向きは南になります。
近年の台風で、八王子がもっとも荒れたのは、昭和41年の台風26号でした。この時は台風の中心が八王子のすぐ西の奥多摩付近を通過しました。高尾山をはじめ周辺の各地で、樹齢数百年という杉の大木が多数吹き倒され、屋根をはがされた家、長時間にわたって停電・断水するなど、被害が甚大でした。
一方、台風が本州の南岸沿いを進んでいく時は、風向きが図のように変わっていき、もっとも強く吹く時の風向きは北になります。

台風が接近すると、関東地方に上陸するかしないかを心配される方が多いですが、台風は点ではありません。広い範囲の暴風域・強風域と強い雨雲を伴っていることを十分に心得ておき、八王子の西側を通る台風は、大きさや勢力にもよりますが、十分な警戒が必要であることを承知していただきたいと思います。

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気象観測というと、何か特別な装置や専門の知識が必要と思いがちですが、原嶋さんはユニークな観測方法をとっていらっしゃいます。
昭和41年以降、冬の寒冷度を調べるために、水を入れたプラスチックの水桶を庭先に置いて、毎朝7時に桶の氷を割って厚さを記録し続けています。目安としては、氷の厚さが5mmでは氷点下2度前後、10mmでは氷点下4度前後と見当をつけることができます。一晩に張る氷の厚さを一冬累計してみると、多い年は1,089mm、少ない年で377mm。
これを目安に暖冬だったのか、厳冬だったのかを判断できるそうです。

大雨かどうかの目安には、牛乳びんで雨量を測ります。
朝のうちに庭先へ200mlの牛乳びんを出しておきます。一日で牛乳びんがいっぱいになるような雨はとにかく要注意!崖をひかえたところでは、周囲の状況をよく監視して、異変を感じたら避難するための目安にもなります。

どこのご家庭にでもある手桶と牛乳びん。そんな手近なもので!とお思いになったでしょ?
気象観測は毎日欠かさずデータをとることが何より大切なんだそうです。
継続は力なりを文字通り実践されている方なんですね。

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2010年4月追記
八王子天気相談所は2010年4月に無人化。市立第四中学気象部時代から59年間にわたり、天気を記録し続けてきた原嶋先生は3月いっぱいで相談所を去られました。残念です。

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取材協力:八王子市天気相談所
by u-t-r | 2008-09-09 17:21 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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