八王子見て歩記/生まれ変わり物語-4

第四話:生まれ変わりに取材が殺到・その後の勝五郎
藤蔵と勝五郎の生まれ変わり物語-4
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勝五郎の不思議な話しは大きな話題となって、噂は江戸や京都にまで広がりました。やがて中野村の勝五郎の家には話しを聞きたいと、さまざまな人が訪れるようになります。後に勝五郎再生が紹介された資料は13点ほどありますが、もっとも出版が早かったのは隠居した文人大名が出した本でした。

隠居した元大名・池田冠山

ある日、徳川家康の子孫の一人である池田冠山が勝五郎の家までわざわざ取材にやってきました。冠山は若桜藩2万石(現:鳥取県八頭郡若桜町)の第五代藩主で本名は池田定常(さだつね)、元大名という人でした。冠山には露姫という大変かわいがっていた娘がいましたが、前年(文政5年)の11月27日に藤蔵と同じ疱瘡(天然痘)にかかり6歳で亡くなっていました。亡くなった後で、お父さんたちにあてた手紙が6通も見つかったそうです。ちょうどその頃に、冠山は藤五郎の生まれ変わりの噂を聞いたのです。「私の大切な娘もどこかで生まれ変わっているかもしれない」と考えたのかもしれません。この時に冠山が聞き取ってまとめたのが文政6年(1823年)3月8日に出版された「児子再生前世話」(勝五郎再生前生話)です。(クリックで拡大)
※「勝五郎再生前世話」早稲田大学図書館蔵
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不思議な御位牌

勝五郎の前世、藤蔵の生家だった旧家には、代々祀られてきた御位牌がありました。戒名は「浄観院殿玉露如泡大童女」。女の子の御位牌ですね。長年にわたって誰のものか分からなかったのですが、平成19年(2007年)になって、これが池田冠山の娘・露姫のものであることが分かりました。冠山が生まれ変わりの家に置かせてもらっていた御位牌だったのです。当時は複数の御位牌を縁の場所に置くのは珍しいことではなかったようです。娘の再生を祈る父親の切ない思いが約200年の時を超えて今に残りました。また、露姫の御位牌を代々大切にお守りしてきた藤蔵のご子孫の優しさにも胸をうたれます。
写真は国立公文書館蔵の玉露童女(露姫)の遺筆。父の松平冠山は亡き姫をしのんでそれらを模刻して(遺筆を忠実に模した複製を木版印刷して)親戚や知人に配りました。冠山によって配られた遺筆の複製が「視聴草」に綴じ込まれています。6歳の少女の歌や発句はいずれも涙を誘いますが、なかでも児桜(ちござくら)を詠んだ「つゆほどの はなのさかりや ちござくら」の句は、死を予感していた露姫の心のうちをのぞかせ、胸に迫ります。
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中野村の領主・多門伝八郎

勝五郎の話しは江戸で大変な話題となり、多くの人が知るところとなりました。勝五郎が暮らす中野村の領主多門(たかど)伝八郎は、これは放ってはおけないと勝五郎親子を江戸に呼び出し、事の真偽を問いただすことにしました。伝八郎は取り調べた内容を報告書にまとめて、同年(文政6年)4月19日に上役である御書院番頭の佐藤美濃守へ届書として提出しています。取り調べたのは中野村の村役人や程久保村の知行所役人たちでした。内容は、前世とされる藤蔵の家族から勝五郎たちの家族にまで及びます。多門は上司である御書院番頭に経緯を報告し、「勝五郎が文化12年(1815年)10月10日に再生した」と明記しました。
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国学者・平田篤胤

国学者・平田篤胤(あつたね)は、文政6年(1823年)4月22日から25日にかけて、江戸に出てきていた勝五郎を自分の学舎に招き、直接本人から話しを聞き取りました。この時には自分一人ではなく、学舎の友人や知人、門弟の協力を得て、複数の耳で聞き取りをしています。勝五郎は生まれ変わりのことを人に聞かれるのをひどく嫌いました。また、話し方も子供の言葉でたどたどしく、声も小さかったそうです。それでも篤胤たちは何とか前後の脈絡を推測して、証言を記録していきました。

同年(文政6年)6月には「勝五郎再生記聞」として出版。著書は8月に仁孝天皇や光格上皇に献上されて、御所や都でも大変な話題となりました。文政8年(1825年)8月26日、11歳の勝五郎は再び篤胤の学舎を訪れ、門人となります。そのまま翌年(文政9年)3月25日まで滞在。その後も文政10年(1827年)頃まで学舎に出入りしていたようです。(クリックで拡大)
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その後の勝五郎

勝五郎の父・源蔵は農業の傍ら副業として目籠(竹籠)を作って江戸へ売りに行っていました。勝五郎も後年、父と同じように農業と目籠作りで豊かな生活を送ったといいます。勝五郎はやがて、妻・まんと結婚し分家します。後に後妻・なみを迎えますが、残念ながら実子はできなかったようで、6歳の与右衛門を養子にとりました。与右衛門は明治元年(1868年)に妻・さくと結婚。勝五郎はその翌年の明治2年(1869年)12月4日に病気で亡くなります。55歳でした。写真は小宮公園「雑木林ホールに展示されていた目籠細工です。多摩地域の雑木林には篠竹(しのだけ)が広く自生していました。この篠竹を使ってザルやカゴなどを編みました。
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勝五郎の家族をはじめ、時代は移り変わりましたが、人々は勝五郎の生まれ変わり話しを子々孫々語り継いでいきました。明治30年(1897年)9月には、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が「仏の畑の落穂」に「勝五郎の転生」を著し、ロンドンとボストンで出版。海外に勝五郎の生まれ変わりを紹介しました。

勝五郎と藤蔵の墓所

現在、勝五郎は子孫の方に守られて、十六羅漢で有名な永林寺(八王子市下柚木)に眠っています。元は中野村の実家裏山に墓地がありましたが、昭和40年代に宅地開発されたため現在の場所に改葬されました。
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勝五郎の前世・藤蔵のお墓も同じく宅地開発のため改葬され、今は高幡不動尊境内の墓地にあります。
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高幡不動の藤蔵の墓には立派な説明板が建てられていました。(クリックで拡大)

ほどくぼ小僧 勝五郎生まれ変わり物語
勝五郎の前世 藤蔵の墓(法名:頓悟童子)

中野村(現・八王子市東中野)で生まれた小谷田勝五郎が八歳になった文政五年(一八二二)秋、自分の前世は程久保村(現・日野市程久保)の藤蔵であると語りました。勝五郎が話したことが本当であると分かると、この噂は地元だけでなくいち早く江戸でも大評判となりました。
勝五郎生まれ変わりの話を、当時の大名 松平(池田)冠山や国学者 平田篤胤が仁考天皇に自分の著書を献上したことにより、御所でも評判になったそうです。
明治時代に小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が英文で西洋に紹介したことにより、海外でも知られるようになりました。勝五郎生まれ変わりの物語には、現在も写本を含め多くの書物が存在します。
藤蔵は疱瘡にかかり、文化七年(一八一〇)二月四日に六歳で亡くなりました。お墓は家の近くの山の中に在りましたが、その場所も昭和四十七年に当地へ改葬されました。
当時藤蔵の家は須崎姓でしたが、幕末の頃に小宮彌平の次男鏡治郎が家督継承時に実家の小宮姓を名乗り、以来代々小宮姓を名乗っています。

平成二十二年(二〇一〇)二月四日
藤蔵没後二百年を記念して 小宮 豊 誌之

高幡山金剛寺
日野市郷土資料館
勝五郎生まれ変わり物語探求調査団

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勝五郎の生まれ変わり物語の存在を知ったのは、高幡不動にアジサイの写真を撮りに行った時でした。不思議なお話しではありますが、どこか心が温かくなる。あなたには、もう一度会いたい人がいますか?

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参考資料:「絵本:ほどくぼ小僧 生まれ変わりの勝五郎」(日野市郷土資料館)、「生まれ変わり物語の主人公 ほどくぼ小僧(勝五郎)の前世 藤蔵の墓」(勝五郎生まれ変わり物語探求調査団)、秋田魁新報社「前世知る少年 篤胤「再生記聞を読む」

藤蔵と勝五郎の生まれ変わり物語(全4話)
第一話:前世の記憶を語りはじめた勝五郎
第二話:不思議な話しが広まっていく
第三話:前世のふるさとを訪ねる
第四話:生まれ変わりに取材が殺到・その後の勝五郎(当記事)

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by u-t-r | 2017-12-19 16:00 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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