八王子見て歩記/生まれ変わり物語-1

第一話:前世の記憶を語りはじめた勝五郎
藤蔵と勝五郎の生まれ変わり物語-1
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今から200年ほど前の多摩地区で本当にあった不思議なお話しです。時は江戸時代後期の文政5年(1822年)。勝海舟が生まれ、シーボルトが来日したころ、武蔵国多摩郡中野村(現在の八王子市東中野)に勝五郎という8歳の少年が住んでおりました。晩秋11月、勝五郎は一緒に遊んでいた姉・ふさ(14歳)と兄・乙次郎(13歳)に「今の家に生まれ変わる前、どこの家の子だったの?」と尋ねました。驚いた姉・ふさが「そんなこと知らない」と答えると、「おらは、程久保村(日野市程久保)の久兵衛の子で藤蔵だった」と話しました。これが前世を知るという勝五郎が語った生まれ変わり物語のはじまりです。(古民家写真はイメージ)

家族が信じてくれない

前世について語りだした勝五郎の話しを姉・ふさは信じてくれず、「おかしなことを言う子だね。おとっつあんやおっかさんに言いつけるよ」と大きな声をあげました。勝五郎は「おっとうやおっかぁに言わないでほしい」と泣いて頼むのでした。その後もけんかをするたびに「あのことを言いつけるよ」と言うと、すぐおとなしくなる勝五郎をいぶかしく思った両親。姉を問いつめると、ふさはありのままを話したのですが、疑いはますます深まるばかりでした。当の本人の勝五郎に聞くと、しぶしぶ語りはじめました。「おらぁ、もと程久保村(高幡不動の近く)の久兵衛の子で、母親の名は、おしずと言うんだ」と、前世の記憶を父母に話しました。あまりに不思議な内容なので、幼い子どもの戯れ言のように受け取った両親はすぐには信じることができませんでした。

後に、地頭(領主)多門伝八郎が幕府御書院番頭へ提出した届書によると、翌文政6年(1823年)当時の勝五郎の生家・小谷田家は、父:源蔵(49歳)、母:せい(39歳)、祖母つや(72歳)、姉;ふさ(15歳)、兄:乙次郎(14歳)、勝五郎(9歳)、妹:つね(4歳)の7人家族でした。勝五郎は文化12年(1815年)10月10日生まれで9歳。
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死後のできごとを語る

翌12月になると、勝五郎は毎晩一緒に寝ていた祖母・つやに、藤蔵が死んでからこの家に生まれるまでのことを話していました。「病気のために死ぬ命じゃなかったんだけど、疱瘡(天然痘)の薬を飲まなかったので死んでしまったんだ」「お葬式の日には、棺桶に入れられて山の墓地に運ばれたけど、棺桶をお墓の穴に入れた時に、ドスン!というすごい音がして魂が抜け出したんだよ」。藤蔵の魂は家に帰りましたが、泣いていたお母さんは気がつかないようでした。

やがて白いひげに黒い着物を着たおじいさんに連れられて、山や川をふわふわと飛びまわりました。暑くも寒くもなく、お腹も空きません。野原には赤や黄色のきれいな花が咲いていました。遠くで、お念仏を唱える声が聞こえたので家に帰ってみました。誰も藤蔵に気がつきません。お供えしてあるぼたもちを食べることはできませんでしたが、その温かい湯気の香りがとても美味しく感じられました。

あの世にいたのはほんの数日だったような気がしましたが、おじいさんから「三年たったから生まれ変わるのだ」と言って連れてこられたのが、中野村の勝五郎の家でした。言われるままに家の中に入って、かまどの陰で様子を見ていましたが、いつの間にかお母さんのお腹の中にすうっと入り、勝五郎になって生まれたのでした。
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勝五郎の生家を訪ねて

勝五郎の生家があった中野村は、江戸時代とは景色がずいぶん変わってしまいましたが、当時そのままの場所も残されています。勝五郎の物語をご紹介しながら、八王子の勝五郎ゆかりの地を歩いてみます。生まれ変わった勝五郎の生家は、中央大学多摩キャンパス正門にほど近い、現:八王子市東中野。キャンパス内には「勝五郎の道」が当時そのままの姿で残されているそうです。勝五郎ゆかりの地巡りは、多摩モノレール「中央大学・明星大学駅」からスタートします。
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改札を出てすぐ右側が中央大学東門。守衛さんにお聞きしたところ、「勝五郎の道」は、モノレール改札口とは反対側の正門近くにあるそうです。一般の方もキャンパス内に入れますが、トンネルをくぐった方が近道ですよと教えていただきました。勝五郎の生家も正門から歩いてすぐ。まずは生家に行ってみましょう。モノレールの駅を降りてすぐ右折。ゆるやかな坂道は、もう中央大学の敷地内です。
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道なりにまっすぐ歩くとトンネルが見えてきました。キャンパスの下を通っています。その名も「中大隧道」、通称:中大トンネルです。以前は大学の占有トンネル(道路含め)でしたが、平成11年(1999年)に八王子市に移管され現在は市道だそうです。
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中大トンネルの長さは259メートル。途中に待避所が何か所かありました。自転車ですれ違うためのものなんでしょうね。それにしても歩くと長い。
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中央大学正門に着いたら、ゆるやかな坂道を降りていきます。
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右手に大きな屋根が見えてきました。この家はかつて勝五郎の祖父・勘蔵の実家でした。そのご子孫の方は代々同じ場所に住んでいます。勝五郎の生家は山のすぐ向こう側なので、お父さんと一緒にお祖父さんの実家に遊びに行ったことがあるかもしれません。
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山の切れ目に細い道が通っていました。ここを通れば近道。勝五郎の家までもうすぐです。
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勝五郎の生家があった場所は、現在、新興住宅地「多摩ニュータウン東山」になっていました。
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地形が変わってしまったため特定はできませんが、おそらく勝五郎の生家があった場所はこの2軒の家のあたりでしょう。
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昭和22年(1947年)に米軍が撮った空中写真がこちら。以前は山あいの畑が広がっていたようです。赤い矢印が勝五郎の生家があった場所です。(クリックで拡大)
※国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」で検索
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第二話では勝五郎ゆかりの地と「勝五郎の道」を訪ねます。
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藤蔵(前世)が生まれた程久保村は現:日野市程久保、再生した勝五郎の家は現:八王子市東中野で、勝五郎生まれ変わり物語は現在の2つの市にまたがったお話しです。日野市郷土資料館様では「勝五郎生まれ変わり物語探求調査団」として市民が集まり、郷土資料館様とともに調査・研究・普及・啓蒙事業を行われているそうです。

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参考資料:「絵本:ほどくぼ小僧 生まれ変わりの勝五郎」(日野市郷土資料館)、「生まれ変わり物語の主人公 ほどくぼ小僧(勝五郎)の前世 藤蔵の墓」(勝五郎生まれ変わり物語探求調査団)、秋田魁新報社「前世知る少年 篤胤「再生記聞を読む」

藤蔵と勝五郎の生まれ変わり物語(全4話)
第一話:前世の記憶を語りはじめた勝五郎(当記事)
第二話:不思議な話しが広まっていく
第三話:前世のふるさとを訪ねる
第四話:第四話:生まれ変わりに取材が殺到・その後の勝五郎

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by u-t-r | 2017-11-28 16:00 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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