八王子見て歩記/市野製あん所-1

第1話:八王子のあんこ屋さん
市野製あん所-1

甲州街道(国道20号線)を高尾方向に走り、追分で右に入ると泉町湧水群に通じる陣場街道(都道521号線)です。南浅川を渡ると横川町。川に架かる水無瀬橋のたもとに、まるでお風呂屋さんのような大きな煙突が立っていました。創業93年の八王子のあんこ屋さん、一般の方にも販売してくださる市野製あん所様の工場です。子どもの頃、家でお汁粉やおはぎを作る時によく買いに来ましたっけ。さて、あんこってどうやって作るのでしょう。なぜ八王子の地でお仕事を?前から一度お話しをお聞きしたいなぁと思っていたところ、今回、市野社長様が快く受けてくださったので、さっそく伺ってきました。
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かつては人々の生活に寄り添っていた和菓子

「あんこの代表的な用途といえば、なんといっても和菓子です。おまんじゅう、最中、大福、きんつば、だんご、羊羹、おはぎ(ぼたもち)、たい焼き・どら焼き。数え上げたらきりがありません。昭和時代に植木職人さんや大工さんを家に呼んだ時は、お茶に添えて必ず和菓子を出したものです。入学式や卒業式などの行事には紅白のまんじゅうをよくもらっていましたね。当時は和菓子が今よりもっと人の一生に寄り添っていたんです。」
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「和菓子には縁起のいいものが多いです。紅白まんじゅうは、おめでたい時に紅白幕、お赤飯、紅白饅頭など紅白を使う習慣から。最中は、2つ合わせることで「おめでたいことが重なる」という意味。端午の節句に出される柏餅は江戸生まれ、新芽が育つまで古い葉が落ちないところから子孫繁栄の縁起です。たい焼きの鯛は七福神の恵比須さまにちなみ、「めでたい(愛で甚し)」に引っ掛けています。」
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製あん所のお仕事

「私どもの会社では、甘味が入っていない状態の餡=生餡を製造しております。ご家庭で小豆を煮る時は上白糖を加える方が多いかと思いますが、和菓子屋さんは生餡にお店独自の配合で甘味を付けていらっしゃいます。職人さんたちが使う甘味は種類が非常に多いです。氷砂糖、鬼ザラ(鬼ザラメ)、ザラメ(白又)、本グラニュー、グラニュー、さい糖(北海道産てんさい糖)、上白糖、黒糖、三温糖、水飴などなど。これらの糖類を混ぜて使っていらっしゃるわけです。使う餡を甘い順番に並べますと、羊羹〜最中〜どら焼き(たい焼き)〜和菓子の順になります。それぞれの用途に最適な甘味をお店で付けていらっしゃるわけですね。」

「出荷している生餡は、厳選された北海道産小豆やいんげん豆を使用しています。製品の種類はつぶあん(粒餡)とこしあん( 漉し餡)、白あん(白餡) の3種類で、甘味を加えない生餡と、加えた練餡の計6種類を販売しております。一般の方には砂糖入りの練餡を500円(500g)でご用意しております。手軽なお値段なので工場までお買い求めに来られる方も多いですね。ご自分で好きな甘味を付けたい方には砂糖なしの生餡もお分けしております。砂糖入りの練餡の場合、冷蔵庫で約2週間保存ができますが、生ものなので早めのご使用をお願いいたします。」

■生餡/つぶ餡、こし餡、白餡 500円(500g)
※写真は撮影のため少量を取り分けて撮りました。(クリックで拡大)
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練り餡(砂糖入り)/つぶ餡、こし餡、白餡 500円/500g
※写真は撮影のため少量を取り分けて撮りました。(クリックで拡大)
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餡業のはじまり

「日本の製餡業のはじまりは明治中期頃です。それまでは、和菓子屋さんが自家製餡していたのですが、やがて需要の増加により、餡の製造部門が分離・専業化して独立企業として発生しました。東京で最初に製餡業をはじめたのは明治20年頃、一源製餡所様と東京根津製餡所様の2社です。当社創業者の出身は静岡県承元寺村(現在の清水市)で、当時の承元寺村は戸数40戸あまり、主な収入源が蜜柑栽培の小さな村でした。」(クリックで拡大)
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「同じ村の北川勇作氏が和菓子屋さんの修行を経て、、明治33年(1900年)11月23日に大阪市南区日本橋筋3丁目に北川製餡を設立しました。時代が今と違いましてね。事業がようやく軌道に乗ったころ、不況のため取引銀行が倒産して預金が引き出せなくなってしまったことがあるそうです。運転資金に行き詰まった北川さんは郷里に助けを求めました。また、村の皆で田や畑を売るなどして資金を集めてくれたそうです。同郷の繋がりってありがたいですね。」(写真は北川製餡創業者の北川勇作氏)
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八王子の地で創業

「この会社で働き、製餡業を学んだのが同じ村出身の私の祖父・市野幸作です。北川製餡で修行させていただき、退社後しばらくは創業の地を求めて場所探しをしたそうです。当社の創業は大正13年(1924年)、南浅川のほとり横川町に「北川製餡」の社名を掲げて事業を開始しました。のれん分けといったところでしょうか。八王子に決めたのは、当時織物産業が盛んで、女子工員さんがたくさんいた=需要が多いと見込んだことと、豊富で良質な地下水に惚れてでした。」(写真は市野製あん所創業者の市野幸作氏)
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「その後、社名を『北川製餡市野商店』と改称。昭和27年には『有限会社市野製餡所』といたしました。餡(あん)を飴(あめ)と誤読される方が多くなりましてね。最近は『市野製あん所』と平仮名表記にしております。」
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和菓子には複数の呼び名のあるものが少なくありません。たとえば、春のお彼岸は「ぼた餅」、秋のお彼岸は「おはぎ」。それぞれ、春は牡丹の花にちなみ「ぼた餅」、秋は萩の花にちなんで「おはぎ」と呼ぶようになりました。では、夏と冬は何と呼ぶのでしょう。

夏は「夜船」、冬は「北窓」という呼び名があるそうですね。おはぎは杵を使って餅つきしないでも作れることから、「つきしらず」が語源となった言葉遊びだそうです。「餅をいつ搗いたか分からない」→「夜で船がいつ着いたか分からない」→「夜舟」。餅を搗かないので、つき知らず→北向きの窓は月が見えないので月知らず→「北窓」。
春=「ぼた餅」、夏=「夜舟」、秋=「おはぎ」、冬=「北窓」。春夏秋冬それぞれにふさわしい名前。なんておしゃれな言葉遊びでしょう。
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取材協力:有限会社 市野製あん所(〒193-0823 東京都八王子市横川町103 TEL.042-622-0834)

市野製あん所(2話)
第一話:八王子のあんこ屋さん(当記事)
第二話:製餡所の工場見学

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by u-t-r | 2017-08-29 16:00 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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