八王子見て歩記/龍蔵神社

龍神様のお社
龍蔵神社(上恩方町降宿地区)
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都道521号線で上恩方町をまっすぐ下ると、夕やけ小やけふれあいの里を過ぎたあたりで道が2つに別れます。左折方向は高留橋を渡って案下川に沿って和田峠へ抜ける陣場街道、直進は醍醐川に沿って森久保〜降宿(振宿)を通り、醍醐から醍醐林道に通じています。醍醐とはまるで京都のような地名ですが、八王子最高峰の醍醐丸(標高867m)の麓にあたるところから名づけられたのでしょう。このあたりは道路の両側に深い森が迫り、道沿いの擁壁は苔むしていて昼なお暗いといった場所です。実際に行ってみて八王子にこんなところがあったのかと驚きました。まさに深山幽谷といった感じ。この地には古くから龍神伝説が伝わります。中心となっているのは龍蔵神社と龍神渕(別名:雨乞い淵)。まずは降宿にある龍蔵神社をたずねてみました。

龍蔵神社の由緒

石船山龍蔵神社(通称龍蔵神社)の由緒によると、昔、神龍がこの石船山に降臨したところに社殿を造営したとの伝承があるそう。寛永元年(1661年)に再建され、明治5年(1872年)10月に住吉神社を合祀しました。歴史は古く、明治33年(1900年)12月1日付けの恩方村役場の神社台帳には次のように記されています。

村社
龍蔵神社
住吉神社 合社

一、祭神
岩龍姫命(龍蔵神社)
底筒男命 ┓
中筒男命 ┃(住吉神社)
表筒男命 ┛

一、由緒
七百有余年為霊神自龍宮界掉枚□之船池来而石船山ニ開社ス
其後寛文元年十一月再建ス
明治五年十月住吉神社合社ス


明治5年は西暦1872年ですから、700年さかのぼると1172年より前、平安後期の承安年間に創建とされています。平清盛や親鸞がまだ生きていた時代です。さらに江戸時代初期の寛文元年(1661年)に山室次郎左衛門が龍蔵神社を再建した棟札も残っています。

大日本国東海道武州多摩郡八王子之荘案下谷之石船山龍蔵権現棟札之失伝聞者龍蔵権現者七百有余年為霊神自龍宮界掉枚□之船池来而石船山ニ開社ス

寛文元年(1661年)からさらに700年、1000年以上も前です。平安時代初期の応和年間(961〜964年)にまで歴史をたどれる大変由緒のある神社であることがわかります。
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雨乞いと安産の神様

さてこの龍蔵神社は、雨乞いと安産の神様として崇敬されています。「龍蔵神社は、鵜茸草茸不合命(ウガヤフキアエズノミコト)の母である豊玉姫を御祀りしているが、妊娠した豊玉姫のお産が軽く、鵜の羽で葺きかけた産室がふき上がらないうちに子どもが生まれたので、鵜茸草茸不合命と名附たが、それ程に豊玉姫のお産が軽くすんだ」という伝承があります。現在の御祭神は岩龍姫命となっており、この神が豊玉姫であるか否かは定かではありません。

御神体は「八王子市恩方見て歩き絵図」によれば「船の帆柱に竜が巻きついているもの」とあります。昔は七年毎に御開扉され「御衣裳替え」の神事が行われていたそうです。もとは代々加住村谷野の神官「でんみょう」という人の手で行われていましたが、後に村の神官の手によって行われました。今は行われていません。

雨乞い祈願の時は、まず、土地の水を龍神淵へ運んで流し、次に龍神淵の水を竹筒にいただいてきて龍蔵神社にお参りした後に土地へ運んで流せば雨が降るというもの。昔は仮装で繰り出し、三味線などを用いて大変な賑わいだったといいます。休んだところに雨が降るので、龍神渕から離れた里では駅伝のように水をリレーしたりもしていました。そうして雨が降ったらその雨水をまた瓶につめて龍神淵へ行ってお礼に流しました。遠方の人はお礼参りに紅白の餅を持ってきて龍神淵に沈めることもありました。醍醐の子どもたちはお参りの人が去ると淵から餅を拾いあげて帰り、焼いて食べたものだそう。

安産祈願としては「御衣裳替え」で替えられた紅絹(もみ)の布は安産の御符として、産婦にこれをいただかせました。この御神符をいただいて安らかに生まれた赤ん坊の手には、しっかりと紅絹の布が握られていたといいます。安産を祈願する産婦は、社に奉納してある旗をお借りして腹帯としました。無事にお産が済んでお礼詣りの時はお借りした旗の他に新しい旗を1本添えて奉納する。男児の時は白旗、女児の時は赤旗を、借りた時より少し長めにして返す習わしがありました。また、難産の時は、旗で妊婦の腹をなでると安産するといわれていました。
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龍蔵橋と醍醐川

醍醐川にかかる龍蔵橋を渡ります。このあたり一帯の醍醐川沿いの南側は必ず橋を渡らなければ民家に出入りできず、小さな橋がたくさん架かっています。大正末期までは、南と北に別れた集落はそれぞれに共同の洗い場を持ち、炊事洗濯、飲料水は天秤棒を使って桶で汲み込んでいました。これらは主婦の仕事で、時には子どもを背負いながらの水汲みはさぞ大変だったことでしょう。
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醍醐川の流れとタマアジサイ。八王子の山間部には1級河川多摩川の源流が何本もあります。醍醐川は下流で案下川と合流し、上恩方町の落合橋から浅川となり、日野市の東端で多摩川と合流します。水源に近づくにつれて水は透明になり、夏でも手が切れそうな冷たさです。手前の川岸の花はタマアジサイ。まん丸のピンポン球くらいのツボミから香り高い花を咲かせます。八王子でも、この場所でしか見たことがありません。
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境内へ

龍蔵神社へは鳥居をくぐって急な石段を登る参道だけでした。途中から石段はゴロゴロした石積みとなり、最後は木の根が階段代わり。
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参道を登りきると左右に大きな石灯籠2基がありました。向かって右の石灯籠基部に平成14年(2002年)11月造立とありました。
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大正15年(1926年)まで、社の周囲と庭には杉の大木が6本余と太い切株が残っていたそうですが、拝殿造立の際に切り倒したり、その後枯れてしまったりして、昭和48年(1973年)には2本に減ってしまい、最後の1本は昭和58年(1983年)に伐採されました。目通り4.21mの大木で、推定樹齢500余年だったそうです。
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右の建物は神楽殿、左が御本殿です。神楽殿は平成15年(2003年)8月に森久保町会と振分醍醐町会により修復工事を受けました。
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地元の方にお聞きすると、お祭りの時だけ神楽殿舞台と境内との間に階段を設けて上り下りするんだそう。
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境内の奥にあるのが龍蔵神社拝殿です。
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拝殿の裏手には御神体や御祭神が祀られている御本殿。
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御本殿前の小さめの石灯籠は天明年間(1781〜1789年)造立です。日本の近世では最大の飢饉とされる天明の大飢饉や浅間山の大噴火が起きた時代です。
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狛犬は2対4体でした。
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拝殿手前の石段脇の狛犬は台座によると、奉納されたのは昭和15年(1940年)。
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拝殿すぐ前の小さな狛犬は寛政8年(1796年)でした。パグみたいでかわいい。
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境内の高台には殉国忠霊碑がありました。建碑は昭和33年(1958年)4月15日。
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碑文によると、最初は西南の役、大東亜戦争では地元八王子のほか、ニューギニアや南シナ海、フィリピンで亡くなられた森久保、降宿、醍醐ご出身の戦没者21名の方が奉ってあります。故郷に「ただいま!」を言えなかった方々です。(クリックで拡大)
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さすがは龍神様の御社というべきか、夏8月に行ったというのに、3回中2回も雨に降られました。雲は山道では霧となり、醍醐の道をしっとりと濡らし続けます。龍蔵神社の石段も傘をさしたら滑って登るのがちょっと恐い。

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醍醐の龍神伝説(3話)
龍蔵神社「龍神様のお社」上恩方町降宿地区(当記事)
龍神渕と醍醐林道-1「醍醐の龍神伝説と醍醐林道」上恩方町醍醐地区
龍神渕と醍醐林道-2「醍醐川上流端とばばころがし」上恩方町醍醐地区

取材協力:八王子市郷土資料館
参考資料:藤九郎屋敷と上恩方の歴史(楢本要助著)、八王子市恩方見て歩き絵図(企画:秋間健郎・制作:岩倉節)、八王子発見路地散策案内(中島善弥著)

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by u-t-r | 2015-09-22 16:00 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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