八王子見て歩記/かたくら書店(後編)

かたくら書店(後編)
小学校がすぐ満員に
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_11241539.jpg

かたくら書店様にお時間をいただき、お話しをうかがうことができました。「裏口が開いてますよ」とのご指示で駐車場側から入っていくと、裏側に「かたくら書店」の小さな看板がかかっています。さらにイベント告知の立て看板まで。店舗の表は閉めていますが、近隣の方の強い要望で本屋さんを続けていらっしゃるそう。

シルクナード商店街オープン

シルクナード商店街にかたくら書店を開業したのは昭和53年(1978年)2月28日です。私が来た時にはまだ2軒分の区画が空いていましたが、1年もかからないうちにすべて埋まったことを憶えています。臭いのする商品、たとえば生鮮3品やパンなどのお店は奥側に配置されるといった具合で、店舗の区画を自分たちで選ぶことはできませんでした。オープン当時のお店の配置はこうでしたよ。(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_11482436.jpg

左側の商店街、東西電業社は電器屋さん、かたくら書店(うち)は書店、ドラッグ片倉台は薬屋さん、リビングショップいづやは家具屋さん、やなぎ花園は今もある花屋さんですね。お食事みちのくは和食屋さん、ミツヤ米店は米屋さん、つるやは布団屋さん、理容エルは美容院、朝日新聞の配達所もありました。
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_2037569.jpg

右側の商店街、今は戸建住宅が建っている場所に第一勧業銀行がありました。福家酒販は引っ越して近所で営業を続けている酒屋さんです。ヤマザキパンはパン屋さん、ホームイング片倉台はリフォーム屋さん、ミートショップ木村は肉屋さん、飯田水産は魚屋さん、ミリオンショップ江戸やさんは八百屋さんでした。
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_20381143.jpg

商店街の入口にあるバス停の横には、当時、第一勧業銀行がありました。裏の駐車場に銀行名が記された当時の看板が残っています。※第一勧業銀行は平成12年(2000年)、株式移転により、富士銀行、日本興業銀行とともにみずほホールディングスを設立。現在はみずほ銀行・みずほコーポレイト銀行となりました。
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_12502039.jpg

小学校がすぐ満員に

私が家族とともに引っ越してきた昭和52年ころには、まだ片倉台に郵便局はなく、本を買うにも八王子駅まで出ていました。買い物は片倉駅の商店街まで買い出しに行ってましたが、途中の長い坂道を上り下りする主婦は大変だったでしょう。小学校も人口が急激に増えたためすぐ満員になりました。

昭和54年(1979年)ころに撮影された片倉台の空中写真です。画面中心に見えるのが片倉台小学校とシルクナード商店街。まだ第一勧業銀行は建っていませんね。郵便局は造成中です。後で八王子バイパスが通る場所もまだ山のまま。(クリックで拡大)
※国土変遷アーカイブ空中写真閲覧システム
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_1310730.jpg

脱サラして本屋さんに

最初から書店を経営していたわけではありません。片倉書店は片倉台に来てから脱サラしてはじめた書店でした。開業前、当時46歳の私はごく普通のサラリーマン。書籍の流通過程なんて当然何も知りません。思い立ってお茶の水の岩波書店に飛び込んでみました。「本屋をやるにはどうすればいいですか?」。応対してくださった方は目が点になってましたねぇ。

相手にされないのは仕方ないんですが、かといって業界に知り合いはいない。渋谷〜神田間の本屋さんに片っ端から聞き回りましたよ。ある店で紹介された出版社に行ってみたら、ハンサムな青年が話しを聞いてくれました。後で課長さんだと知りましたが(笑)。そこからさらに書籍取次会社の営業部長を紹介されて相談にのってもらいました。「資金は?」「開業場所のめどは?」など次々に聞かれ、書店開業のプロセスまで教えてもらえてありがたかったですね。内金を問屋さんに先払いする仕組みも初めて知りました。
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_13423642.jpg

当時のエピソードあれこれ

高級住宅地ならではのエピソードには事欠きません。ある日店にFAXが入りました。発信元は都心の某官庁。なんで本屋にお役所から?と考えていたら電話がかかってきました。「FAXが届いたろう?」。常連のお客様でした。お役所からうちのFAXに送信したそうです。はたまた、ある日の片倉台の投票所。パトカー先導で車が入ってくる。選挙に来たのは某官庁の事務次官さんでした。今では考えられないのどかな時代だったんでしょうね。

変わったご注文も多かったですね。「8Bの鉛筆をください」。JIS規格では4Bが最高です。クロッキー用の画材鉛筆に8Bがあることを知りました。「アイログラムを」。一生懸命調べてみたら、日本のミニレターにあたる海外郵便用の封筒兼用便せんでした。ヨーロッパの時刻表がほしいというお子さん。取次店に問い合わせてみたら、「シーズンはいつにしましょう?」と返されました。「は?」と思わず声が出ちゃいましたっけ。タイムテーブルがシーズンによって変わるのがヨーロッパでは常識だそう。「湖沼図を取寄せて!」。普通の地図は海抜で高さを表しますが、湖沼図は水深です。湖の等深線、地質、水生植物などが明記されている地図でした。画像は国土地理院電子国土web、河口湖の湖沼図。
(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_14223819.jpg

街の高齢化の中で

今の片倉台は9割以上の方が退職されて高齢化が進んだ街です。私自身も街と同じように年をとっていき、書店をたたむことにしたのですが、「歩いていける場所に本屋さんがなくなっちゃう!」との声に心を動かされてしまいました。店の表は閉めましたが、裏口を開けて書籍や雑誌の取り寄せを続けています。現役時代は奥様に本を買ってきてもらっていたご主人、定年後にようやく来店できるようになったと笑っておっしゃいます。こうなると辞めるに辞められませんよ。

皆さんが集まれる、活動できるコミュニティづくりをの願いから、色々なミニイベントも開いています。この日の展示は「懐かしい古い柱時計展」。地元の方が収集されていた柱時計を整理されることになり、片付ける前に皆さんに見て楽しんでいただくことにしました。(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_15332577.jpg

真ん中の時計は珍品中の珍品。「片倉の米の母入パン」の折りたたみ式卓上時計です。どんなパン屋さんだったか今では分かりませんが、ネットオークションでホーロー看板を見かけました。(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_9402093.jpg

わがふるさと八王子

最後に、八王子便箋を作られたきっかけをご主人にお聞きしました。

「八王子便箋」は昭和63年(1988年)から制作しているものです。家族と片倉台に移り住んで、今日からここが私たちのふるさとになるという気持ちを強く持ちました。誰しもふるさとの歴史や風土に誇りを持ちたいと考えるものです。そこで八王子について聞いてみると、一地方都市という側面しか教えてもらえない。そんなわけがあるかと自分で調べていくことにしました。

たとえば、江戸時代から受け継がれてきた人形芝居「八王子車人形」、鑓水商人の栄華を今に残す「絹の道」、戦国時代の城趾「八王子城趾」と「片倉城趾」、童謡「夕焼小焼」が生まれた上恩方町、ミシュランガイド最高ランク“三つ星”の観光地「高尾山」。八王子の歴史を物語る史跡や景勝地が市内にたくさんありました。八王子市を訪れた観光客の皆さんや、市内の大学に留学されている外国の方々に、わがふるさと八王子を伝えたい。そんな気持ちで作りはじめたのが「八王子便箋」だったのです。挿絵は片倉台をはじめ、市民の皆さんに描いていただきました。
(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_1045916.jpg

八王子便箋

八王子便箋は、「風景-1」、「風景-2」、「花」、「絹の道」、「夕焼けの鐘」、「滝山から」、「雑草5点」の7種類、いずれも便箋と同じ挿絵入の封筒が2枚入っています。たとえば第3輯(しゅう)の「花」。豊かな自然に恵まれた八王子には、名前に高尾や陣馬などの地名が入った植物が8種類もあるんです。うち6種類(タマノカンアオイ、タカオスミレ、タカオワニグチソウ、ジンバイカリソウ、タカオシケチシダ、タカオヒゴタイ)の植物画を市内在住の植物学研究者の方に描いていただきました。題字は高尾山薬王院の御貫首様にお願いしました。(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_11104853.jpg

絵はがきの方は、「高尾山」、「ふれあいの里で」、「また高尾山へ」、「絹の道点描」、「八王子点描」、「八王子の風景」の6種類。高尾山や夕焼けの里など八王子ゆかりの風景をモチーフに選んで、同じく地元の方に挿絵を描いていただいています。

販売場所は、セレオ内の有隣堂、JR八王子駅北口のくまざわ書店、高尾山の売店、おおるりの里、八王子市役所地下の販売店等です。かたくら書店内に全種類を置いていますので、ご興味がおありの方は一度ご来店ください。
→かたくら書店

-----------------------------------------------------------------------------------------------

最後に2つの空中写真をご紹介します。1枚目は平成元年(1989年)に撮影されたもの。すでに八王子バイパスは完成しています。第一勧業銀行(後にみずほ銀行)片倉台出張所が写っていますよね。この出張所は、平成17年(2005年)11月14日に八王子北支店へ統廃合されました。(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_15582518.jpg

その40年前、終戦から3年後の片倉台の姿。撮影は昭和23年(1948年)、米軍が撮った写真です。まだ住宅開発が進められておらず、江戸時代そのままの姿を残しています。八王子と横浜を結んだ絹の道はこんな景色の中を通っていました。(クリックで拡大)
八王子見て歩記/かたくら書店(後編)_b0123486_1651590.jpg

-----------------------------------------------------------------------------------------------
取材協力:かたくら書店(片倉台シルクナード商店街)

かたくら書店(2話)
→かたくら書店(前編)「片倉台住宅団地とシルクナード商店街」
→かたくら書店(後編)「小学校がすぐ満員に」(当記事)

ブログランキング・にほんブログ村へ

by u-t-r | 2014-03-18 16:00 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


by UTR不動産
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31