八王子見て歩記/高尾梅郷(後編)

高尾の梅の里(後編)
関所梅林〜荒井梅林〜湯の花梅林〜木下沢梅林〜小仏梅林
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後編は高尾梅郷のある旧甲州街道(都道516号線)の史跡を巡りながら、残り4つの梅園を歩いていきます。今でこそ住宅地を通る静かな細道ですが、かつては日本橋から内藤新宿、八王子、甲府を経て信濃国の下諏訪宿で中山道と合流する江戸幕府の主要街道の一つでした。甲州道中とも呼ばれ、38の宿場が置かれた道を参勤交代の大名行列が練り歩き、あるいは新撰組の近藤勇が小仏峠を越えて大砲を運び、江戸末期には今度は官軍の隊列が江戸へ向かいました。小仏川の静かな流れだけは当時のままです。

関所梅園

駒木野バス停の近くにある関所梅園は、江戸時代は東海道の箱根、中山道の碓井と並んで関東の三関のひとつだった小仏の関の関所跡です。この関所はもともとあった小仏峠からその後麓に下ろされ、更に北条氏滅亡後(1590年)に関東に入った徳川家康によって、ここ駒木野に移されたといわれています。江戸時代の絵図によると、関所には東西に門が設けられ、敷地の北側に番所が設けられていました。画像は子仏関跡の説明看板から。
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当時、関所東門の外には川が流れ、橋が架けられていました。その後土地区画整理事業により撤去されてしまい、旧橋名保存のために駒木野橋石碑が建てられました。
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京王バス「駒木野」バス停の真ん前が小仏の関です。
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紅白の梅の花と一緒に咲いている黄色い花はサンシュユ(山茱萸)の木。江戸時代享保年間に朝鮮経由で漢種の種子が日本に持ち込まれ、薬用植物として栽培されるようになりました。秋になるとグミに似た赤い実を結びます。
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関所跡は公園になっています。ベンチに座りながら観梅できるので、小休止しておきましょう。
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柵に囲まれた中に、当時の手形石と手付石が残っていました。手前・台形の手形石に通行手形を出して乗せ、奥の手付石に手をついて頭を下げます。関所では「入り鉄砲に出女」、江戸への武器の持ち込みと、人質として江戸住まいさせている諸大名の妻妾たちの脱出を特に厳しく監視していました。関所破りははりつけの極刑に処されるほど、厳重な取り締まりが行われており、通行が許されるのは明け六つから暮れ六つまでの間だけ(午前6時から午後6時まで)でした。この門限は明治2年(1869)の太政官布告により廃止されるまで続きます。
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荒井梅林

関所梅林から小仏方面へ400mほど歩くと荒井のバス停があり、曲がり角にみどり幼稚園があります。道標がないので分かりにくいですが、この角を入っていくと荒井梅林です。
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「富士見台を経て八王子城趾へ」とあります。
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道なりにまっすぐ歩くと、トンネルで中央本線を越えます。
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ちょうど東名高速道路の下に沿ってあるのが荒井梅林。車通りがほとんどない静かな道沿いに梅の花が咲いていました。愛車で来られた方がちらほらと。
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旧甲州街道沿いの梅園は道幅が狭いこともあり、駐車スペースに難儀すると思いますが、荒井梅林だけは別。
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荒井梅林は自由に出入りできるのでお弁当を食べるのに最適な場所です。満開の花の下、梅の香りのシャワーを浴びながらランチタイム。あたりは良い香りに包まれていました。
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富士見台・八王子城山へはこのトンネルを抜けて行けるようです。徒歩約2時間10分とあるので、かなりの覚悟が必要です。この日は誰も通っていませんでした。
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トンネルを抜けた先は坂道になっていました。右側の壁は中央高速道路。
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荒井梅林を過ぎたところに「蛇滝口バス停」の標識が建っています。左に曲がって降りていくと旧甲州街道へ戻ります。
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中央本線をまたぐ小さな可愛い踏切がありました。まるで鉄道模型のジオラマのよう。中央線は平成22年(2010年)11月7日に東京駅〜立川駅間で最後の踏切が廃止されました。当時は「開かずの踏切」がいくつもあり、交通渋滞を引き起こしていたものですが、なくなるとあのカーンカンという警告音が懐かしく感じられます。そういえば八王子駅近くにまだひとつ踏切が残っていたような気が…。
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踏切を渡って、満開の梅の下を降りていくと蛇滝口へ出られます。旧甲州街道へ復帰です。
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蛇滝口

蛇滝口は天神梅林の川をはさんで向かい側。遊歩道梅林コースのゴールでもあります。
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蛇滝口バス停前に古い旅籠のような木造の建物がありました。今は使われていませんが、高尾山参りの修験者の宿泊所で、はね板と呼ばれる講中の名が書かれた木札が軒下にずらりと並んでいました。八王子バイパスの高架と修験者、時代のコントラストを感じさせる景色です。
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はね板には、浅草、入江町、はやし町とさまざまな地名が書かれていました。
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道路に面して隣に屋根のついた湧き水が。天井にカップが下がっていました。こんこんと湧き出る水は冷たくて美味しい。
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湯の花梅林

蛇滝口から旧甲州街道を小仏方向に歩いていくと、街道沿いに湯の花梅林があります。高尾梅郷は花壇に梅を植えるのではなく、ある時は川の土手に、またある時は民家の庭先や果樹園、融通無碍に梅の木を配置しています。
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民家の庭に梅の古木が。この日見た一番大きな梅の木でした。さんさんと降る春の陽を浴びて元気よく花を咲かせていました。
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子どもの村の隣にも梅園が。満開の梅の下でハイカーが休んでいました。
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裏高尾の景色って、どこか童謡の歌詞に似てるんですよね。
ただ歩いているだけでも楽しい風景があちこちに。

は〜るの小川は さらさらいくよ♪
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春が来た 春が来た どこに来た♪
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線路はつづくよ どこまでも♪
野をこえ 山こえ 谷こえて♪
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木下沢(こげさわ)梅林

木下沢梅林は中央本線の小仏トンネルをくぐった先。味わいのある煉瓦造りのトンネル(浅川第2橋梁)は、国鉄中央本線の前身であった明治時代の甲武鉄道の名残です。明治34年(1901年)に建造されて以来111年もの間、線路を支え続けてきました。もちろん今でも現役で、上にはJR中央本線が走っています。
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トンネル先右の坂道を登ると木下沢梅林へ通じています。
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坂道の曲がり角に鉄道マニアの方が何人かカメラを構えていました。お聞きしたら今日は珍しい工事用車輛が通るんだとか。1周して帰ってきたら「もう行っちゃいました」。見逃した〜!
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試しに私もカメラで撮ってみました。遠く八王子ジャンクションを望み、山懐に抱かれた鉄路から車輛がやってくるアングルでした。なるほど!これはさまになる。「あと30分たったら、もっと光の具合がよくなりますよ」。さすがに撮影ポイントをよく知っていらっしゃる。
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中央高速の橋脚のすぐ脇に木下沢梅林があります。小山のような起伏は、高速道路工事で出た残土を利用して作ったものだそう。ちょうど日本庭園の築山のようです。
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残念ながらこの日、入口は閉鎖されていました。木下沢梅林は年に二度、毎年3月第二週の梅まつりの時にだけ公開されるそうです。
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せめて気分だけでもと、フェンスから園内を撮影してみました。トレッキングコースがきれいに整備されていて、梅の花をすぐ近くで楽しめます。梅まつりの時はさぞにぎわったでしょうね。
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この木下沢梅林には1,400本の梅が植えられています。1か所にまとまった梅園としては、高尾梅郷で一番規模が大きいんじゃないでしょうか。
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小仏梅林

小仏梅林は高尾梅郷の一番奥座敷にあります。すっかり川幅が狭くなった小仏川を挟んで旧甲州街道と中央本線が並行して走っています。
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道路際の梅の木。旧甲州街道沿いにはたくさんの梅が植えられています。
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もちろん、民家の庭先にも。
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道沿いに進むと中央本線のトンネル入口上部に不思議な構造物が見えてきます。これは、小仏トンネル排煙設備の跡地です。往時はこの上に建物が建っていて、トンネル内から蒸気機関車の煙を排気していました。昭和4年(1929年)に導入されましたが、すぐに中央線が電化したため2年間しか使われませんでした。
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小仏

小仏バス折り返し場で舗装路はおしまいです。車止めのフェンスの先は、今は林道となった旧甲州街道。
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今から145年前までの江戸時代は、主要街道といえどもご覧の通りの道路事情でした。陣笠に振り分け荷物の旅人が、深編み傘で柳行李を背負った行商人が、継飛脚が、2本差に深編笠の藩に戻る武士が行き交いしていた甲州道中です。1日に歩く距離は8~10里(32〜40km)が一般的で、朝早くまだ暗い内に出発して、日没前に宿に入るようにしていました。
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林道を進めば、小仏峠や高尾山、景信山に通じています。
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この日、高尾梅郷に来られたハイカーは、妙齢の女性の二人連れが多かったです。花をお好きな方が女性には多いですものね。他にはご夫婦で、お仲間でという感じで、いずれも50代以上の方たちでした。小仏まで歩いてから折り返す大下〜日影〜裏高尾〜摺指のバス停あたりで、体力の限界に達するようです。バテバテの男性グループが何組かバス停でダウンしていました。女性グループはほとんど見かけなかったことから、持久力は女性の方が上だったかも。
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→高尾の梅の里(前編)/西浅川児童公園〜遊歩道梅林〜天神梅林
→高尾の梅の里(後編)/関所梅林〜荒井梅林〜湯の花梅林〜小仏梅林(当記事)

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by u-t-r | 2012-04-17 16:33 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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