八王子見て歩記/履物(後編)

履物ひとすじ百七十四年(後編)
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履き方・仕立て方
和装履物といえば、昔の時代劇に必ず登場したお約束の場面を思い出します。鼻緒が切れて困っている若い町娘、偶然通りかかった粋者が、娘に肩を貸しながら手ぬぐいを裂いて鼻緒をすげ替えます。「あの、お名前を」、「名乗るほどの者じゃありやせん」。
あれはね、当時の鼻緒は中が麻ひもで、よく切れたからこそなんです。最近は化繊なので滅多なことじゃ切れなくなりました。出会いが少なくなりそうだ(笑)。

履物は洋靴と違ってサイズはcm刻みじゃありません。足を乗せる部分を「台」と呼びますが、現代の女性用は七寸五分(21.0~22.5cm)、M(22.5~24.5cm)、L(24.5~26cm)の3種類です。Mの守備範囲が広く、鼻緒の挿げ方ひとつで、どなたにもぴったりフィットします。もちろん、足が特別小さいとか大きい方には特別サイズが用意してありますが、足を包むように仕立てる革靴と違って、履物は鼻緒の挿げ(すげ)具合を調整して足に合わせるんです。鼻緒の出来の良し悪しと、挿げ具合が足に合っているかで履き心地が100%決まってしまいます。

鼻緒の前の付け根(ツボ)で足の甲の厚さに合わせ、鼻緒の後ろの部分で足の大きさに合わせます。鼻緒には体重の何倍もの力が瞬間的に加わる為、使用中に緩みが出ることがありますが、緩んだ際の再調整は無料でお受けしています。「後ろの高さ」とはかかとの部分の高さ、これはお好みですね。「巻き」は履物の横側面、履物表と共柄もありますし、アクセントの切り替えを付けることも。
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ここまでお話ししてお分かりになりました?下駄や草履、雪駄は、棚に並んだ状態のものを試し履きしても、本当の履き心地は分かりません。きちんと鼻緒を挿げて足に合わせてからが勝負なんです。ただし、全部が全部調整できるわけではないんですよ。「軽装履」という履物は鼻緒を挿げたものではありません。 造りはサンダルと一緒で、天板側に鼻緒を取付け台と接着した物なので、構造上、鼻緒の調節や交換が出来ません。

調整できる履物は裏側をご覧いただくと分かります。写真は両方とも可能なタイプです。見分け方は裏側2か所にフタがあって、開くことができるものです。どうです。前と後ろで別々に調整できるようになってるでしょ?鼻緒を挿げた後は、左側の写真のようにステンレス製の釘できちんと止めますので、歩いていて剥がれる心配はありません。
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ぽっくりさん
11月になると七五三の時期ですね。うちでも女の子向けにぽっくりさんを並べました。どこか懐かしい季節感を感じませんか?かかとのところに鈴が付いているので、歩くたびにチリン♪チリン♪。鈴を付けるとかかとが高くなる。そこで生まれたのがかかとの低いぽっくりさん。鈴は鼻緒の付け根に移動しました。朱色のぽっくりさんは日本の女の子が一番可愛らしくみえる履物じゃないかと思っています。
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女性用一本歯下駄
最近よく出るのが一本歯下駄。「古武術で蘇えるカラダ」という本に掲載されて以来、大変な売れ行きです。歯が一本の為、前後左右のバランスに常に気を配る必要があり、通常歩行ではあまり使わない筋肉も鍛えられ、非常にバランス感覚が良くなるようです。

当初は男性用しかなかったのですが、女性用も発売しました。へっぴり腰じゃ履けない一本歯。不安定なため体重の負荷を一カ所に集中させることが出来ず、他へ分散することで自然に腰や膝への負担が軽くなります。腰痛、膝痛の軽減、予防にも良いといわれています。当の女性たち、一本歯下駄で闊歩してるのかと思いきや、歯にゴム底を付けて音が出ないようにして室内履きに使っていらっしゃるようです。腰痛の悩みをお抱えの女性が多いということなんでしょうか。
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着物で作る履物
あまり知られていませんが、着物の生地で履物を仕立てることもできるんですよ。小柄な方なら余切れで、あるいは形見の着物を履物にする方も。履物表と鼻緒、巻き(履物の横側面)まで作っても70cmあれば十分です。普通の反物生地だと使っているうちに摺れてしまいますので、ビニールコーティングをお薦めしています。納期は3週間〜1か月。もちろんお客様のおみ足に合わせて鼻緒を挿げます。お仕立て料は高級草履と同じ仕立てで作っても1足1万円くらいです。

今まで着物をお召しになっていなかった方が、お茶や成人式などで着ることになって一番困るのが履物。新品を買えばけっこうお高いですしね。タンスに着ていない着物があったら活用するチャンスです。一度ご相談なさってください。余切れで着物と共柄。けっこうお洒落な仕上がりです。
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五代目ご当主のご主人は職人肌の真面目一本やり…のようにお見受けしましたが、ある日市内で大型バイクに乗っているところを目撃しました。ハーレーに乗ったご当代、ちょっと強もてな雰囲気ですが、お話ししてみると気さくな方。西放射線ユーロードを散歩の際は一度お寄りになってみてはいかがでしょう。女性用の一本歯下駄を製造販売している履物屋さんは珍しいそうです。

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取材協力:福島履物店

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by u-t-r | 2009-11-10 17:16 | 八王子見て歩記

UTR不動産です。八王子の歴史や暮らしをコツコツ取材しています。基本は「現地で直接お話しを聞く!」。地元の話題が多いですが、どうぞお付き合いのほどを。


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